ノジュール6月号
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近年鎌倉では「武家の古都・鎌倉」という言葉が書かれた印刷物をよく見かける。これは世界遺産登録を目指す鎌倉の歴史的イメージを示す名称だ。今年の1月には国からユネスコ世界遺産センターへ正式な推薦書も提出され、今年の夏には、国際記念物遺跡会議(イコモス)による現地調査も予定されている。このまま順調に行けば、鎌倉は来年にも、世界遺産として登録される可能性があるという。 そこで今回は、鎌倉在住で海外の世界遺産にも詳しい高木規き矩く郎ろうさんに、歴史遺産としての鎌倉の魅力についてうかがってみた。高木さんは、かつては世界中を飛び回る新聞記者であり、早稲田大学客員教授として危機遺産の調査研究にも参加。現在は鎌倉世界遺産登録推進協議会の理事として活動するとともに、ジャーナリストとしても客観的に推移を取材し、ブログなどで精力的に情報を発信されている。「2004年の『紀伊山地の霊場と参詣道』までは、日本の物件は順調に世界遺産に登録されてきました。しかし、その後世界での登録件数が激増したことにより、鎌倉の世界遺産登録への道のりは、やや険しいものになりました。当初は単純に『古都鎌倉の寺院と神社ほか』という名称で暫定リストに登録されたのですが、山稜部などの発掘調査が行われて『武家の古都・鎌倉』に名称を変更。つまり、天然の城塞とも称される三方が山で一方が海という地形と、それを生かして造られた武家の都全体を歴史遺産と捉えることになったのです」 寺院や神社は、むろん鎌倉の大きな魅力である。しかしそれだけでは、京都や奈良など他の古都との異なる特色が出しにくい。そこで、鎌倉という武家の古都と何らかのつながりがありそうな遺跡も重要な要素として暫定リストに加えられた。たとえば法華堂跡や永福寺跡など現存しないが重要な意味を持つ寺の遺構、朝あさ夷ひ奈な切きり通どおしや化け粧わい坂ざかなど、山を貫いて外の世界と鎌倉をつなぐ切通などである。日本最古の港湾施設である和わ賀か江え島じま跡も、重要な要素のひとつに選ばれた。この和賀江島から材木が水揚げされ、建長寺、円覚寺など、中国伝来の禅宗様式をいち早く取り入れた寺が多数建立されたためだ。 このような考え方にしたがって、ユネスコへの「武家の古都・鎌倉」の推薦書には、全部で21の重要な要素が選定された。それによって、現在目に見えるものだけでなく、鎌倉が形成された経緯も理解しやすくなり、中世の新興勢力であった武家が作り上げた最初の都そのものが、北鎌倉鎌倉朝比奈IC金沢文庫海の公園柴口逗子和田塚由比ヶ浜長谷極楽寺稲村ヶ崎JR横須賀線京急逗子線江ノ島電鉄JR東海道本線JR横須賀線京急本線鎌 倉 市逗子市相模湾金沢文庫へ横浜横須賀道路横浜市シーサイドライン横浜市円覚寺P53P65P57P65P60P61東慶寺P54浄智寺P54海蔵寺P56称名寺覚園寺鶴岡八幡宮P59P61・66P55・68本覚寺P57・68長谷寺永福寺跡浄光明寺瑞泉寺荏柄天神社朝夷奈切通法華堂跡建長寺亀ヶ谷坂極楽寺鎌倉大仏大仏切通名越切通(仏法寺跡)北条氏常盤亭跡和賀江嶋(若宮大路)寿福寺仮粧坂東勝寺跡資産緩衝地帯重要な要素その他の掲載寺院N400m流やぶさめ鏑馬神事文治3年(1187)鶴岡八幡宮放生会に際し、源頼朝公が流鏑馬を行ったことに起源。武家文化の伝統を引き継ぐ行事として、現在も9月の例大祭の際、境内の馬場にて行われる。取材・文:吉田さらさ世界遺産登録への重要な要素とは世界遺産登録候補としても注目される鎌倉の魅力とは―?史跡めぐりや花を愛でるために年間を通して観光客が絶えない、古都鎌倉。世界遺産登録に向けて推薦書も提出されている鎌倉の魅力とはどこにあるのだろうか。62「武家の古都・鎌倉」を構成する資産

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