ノジュール9月号
14/15

昨年夏に公開された映画『大おお鹿しか村騒動記』。南アルプス山麓の谷間に位置する大鹿村に300年もの間、受け継がれてきた実在の農村歌舞伎を背景に、涙あり笑いあり、思わず引き込まれる人間ドラマが展開する。主演の故原田芳雄が自らテーマを示し、「どうしてもやっておきたい」と切望した企画だったというが、日本を代表する俳優の1人にそこまで熱い思いを抱かせた大鹿歌舞伎とは、どのような存在なのだろうか。 現在、5月と10月、年2回の定期公演を行う大鹿歌舞伎は、役者はもちろん大道具や黒子などの裏方、下げ座ざ(効果音)や太た夫ゆう座ざ(浄瑠璃語り)も含め、舞台に関わる人はすべて村の住人という、いわゆる「地芝居」だ。発祥については定かな記録はないが、江戸中期の明和4年(1767)、大河原地区の名主だった前島家の「作さく方かた日記」に狂言見物の記述があることから、当時すでに盛んだったことがうかがえる。平成9年には国の選択無形民俗文化財に選ばれ、平成12年には地芝居として初めて国立文楽劇場での上演を果たした。 映画の影響もあり、昨年秋の公演と今年春の公演は追加公演が行われ、村の人口約1400人に対して、追加公演の観客数は約1800人を数え、はるばる九州からやってくる人もいたほど。また映画に登場する大鹿村の風景に魅せられて、ロケ地めぐりに訪れる人も珍しくない。オールロケで撮影された映画の威力もさることながら、地芝居に生きる村の姿に、日本人としての「心のふるさと」を感じた人は多いのではないだろうか。 農村歌舞伎のいちばんの魅力は「おおらかさ」だろう。開放的な観客席でご馳走を食べ、酒を酌み交わしながら芝居を楽しみ、役者が見得を切ったらかけ声をかけ、おひねりを投げる。シーンによってはどっと沸きたつ客席を、自然の風が心地良く吹き抜けていく。大鹿村には幕末か取材・文:高田京子 写真:山口清文、宮川透解体旬書特別編[第35回]ようこそ、農村歌舞伎へ温かみある伝統芸能に触れる旅昨年公開された映画「大鹿村騒動記」で、一躍脚光を浴びた農村歌舞伎。およそ300年もの間、守られ、発展を続けてきた各地で手作り感あふれる「村の歌舞伎」の世界を味わってみましょう。映画化され話題となった大鹿歌舞伎開放的な野外空間での芝居見物82映画の影響で観光客も増えた大鹿歌舞伎

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です