お悩み解決!旅するカラダ 第37回

うつ病

小野真吾先生
(文:湯浅真弥 イラスト:安齋 肇)

今や95万人の患者数がいると言われているうつ病は、誰でも起こりうる身近な病気です。
気分が沈む。好きだったことに興味関心を持てない…。
そんな異変を感じたら、まずはかかりつけ医で受診を。
必要であれば専門医を紹介してくれます。

うつ病の症状

気分が落ち込む、やる気がでないだけではなく、
身体の不調など、うつ病の症状はさまざま。
2週間以上辛い状態が続くなら、病院に行きましょう。

うつ病に起こる心と身体の症状とはうつ病の症状には、気分が落ち込む、憂うつな気分になる、やる気が起きない、悲しい気持ちになる、その他、焦燥感や集中力の低下などがあります。

軽いうつの症状は誰にも起こることです。2週間を超えてうつの症状が続くようならうつ病を疑ったほうがいいかもしれません。

特に、日に日に症状が強くなったり、仕事や生活に支障が出てくるようになったりすれば、一度、医師に相談されたほうがいいでしょう。

うつ病は、頭痛や動悸、息苦しさ、食欲不振、下痢、便秘といった身体症状から始まることも少なくありません。このタイプの患者さんは、まず内科や外科を受診しますが、検査結果では異常が出ません。その結果、心療内科や精神科を紹介されることになるのです。

精神に問題があり、それが身体的な症状を起こしている場合、例えば、ストレスから胃潰瘍になっているときは心療内科を受診されるほうが良いでしょう。

うつ病や統合失調症などの精神の病気の場合は精神科が担当することになります。ただし、まだまだ「精神科」にはネガティブなイメージが残っていることから、心療内科を選択する患者さんが多いように思われます。

心療内科と精神科は本来対象となる疾患が異なるのですが、心療内科を標榜(ひょうぼう)される医師もうつ病治療に習熟していることが多く、標榜科にこだわらないことです。少しでも早く治療を開始できれば良いのですから。

うつ病では、気分や意欲を司る神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンの量が減って、脳の機能に異常が起こっていることはわかっています。それでもまだ原因やメカニズムはすべて解明されていません。

几帳面な人、仕事熱心な人、責任感の強い人、気を遣う人などに起こりやすく、人間関係の問題やリストラ、親しい人の死、病気などが引き金になるといわれています。

検査に用いられている心理検査の一つがうつ性自己評価尺度「Self-ratingDepressionScale(セルフレイティング・ディプレッションスケイル)(SDS)」と呼ばれる検査用紙です。

20項目の質問に患者さんが回答するものなのですが、あくまで患者さんの自己評価なので、それだけで診断することはありません。診察で得られる情報がより重要になります。

症状に応じた薬による治療法

いかに生活に支障が出ないようにするかが、
うつ病の最大の治療目的です。
薬と上手に付き合って、再発を防ぎましょう。

一人ひとりの
症状にあわせた治療法
うつ治療には一般的には薬物療法が用いられており、薬はSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor〈セレクティブセロトニンレアップテイクインヒビターズ〉)とSNRI(Serotonin Norepinephrine Reuptake Inhibitor〈セロトニンノルアドレナリンレアップテイクインヒビターズ〉)、三環系(さんかんけい)、非三環系の大きく4種類に分かれます。SSRIとSNRIは新しく、三環系と非三環系は以前からあるものです。

SSRIはセロトニンが減少している患者さんの脳内で、働いてくれるセロトニンを増やす薬。SNRIは働いてくれるセロトニンとノルアドレナリンの量を減らさないようにする薬です。ノルアドレナリンは意欲に関わりますので、意欲の低下している患者さん向きです。

三環系と非三環系は、どちらかといえば重度の患者さんに使いますが、効果は比較的早く現れます。しかし、三環系は、便秘や口の渇き、立ちくらみといった自律神経系の副作用が出ることもあります。

これらを患者さんの症状に応じて使い分け、まず1種類の薬を服用してもらって反応をみます。4週から8週間をかけて十分な量のお薬を十分な期間使います。それでも効果が得られない場合には、別の薬に替える、あるいは併用するなどを考えます。

抗うつ薬は約7割の人に効果が現れます。薬物療法を止めることを「治る」と考える患者さんもいますが、薬を止めることがこの病気のゴールではありません。高血圧や糖尿病と同じで、服用を続けることで症状が抑えられていること、生活に支障が出ないことが治療の最大の目的です。もし、服用を止めると、2年以内に約8割の人が再発します。再発を抑えるためには、少量であっても抗うつ薬を続けるほうが良い場合が多いといえます。

気分が沈む。好きだったことに興味関心を持てなくなった。そんな異変を感じたら、まずはかかりつけのお医者さんを受診してください。

(ノジュール2016年11月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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