いつまでも元気に旅しよう!病に勝つカラダ 第1回

いつまでも若々しく元気に活動したいし、旅行にも出かけたい。
そのために病気にならないカラダ作りを予防医学の観点から毎号お届けします。

予防医学って何?

白澤卓二先生
(文:大政智子 イラスト:安齋 肇)

近年の研究で、「生活習慣」が寿命に大きく影響を及ぼすことがわかってきました。
毎日の生活の積み重ねが、健康と寿命を左右します。
病気はかかってから治すのではなく、病気になる前に防ぐことが重要。
病気を予防し、 健康増進を図るのが 「予防医学」です。

「予防医学」は
病気にならないための医学
2016年にWHO(世界保健機関)が発表したデータでは、日本人の健康寿命は世界一となっています。

それを示すように、日本の長寿者は多く、厚生労働省の調査によると、2016年の敬老の日の時点で100歳以上のセンテナリアン(centenarian)は6万5千人以上と世界最多となっています。この数字は46年連続で増加し続けており、今年度中に100歳を迎える人数は3万人を超えると推定されるのですから、日本は世界一の長寿国と言ってもいいでしょう。

ちなみに、センテナリアンとは、1世紀(century)以上生きている人のこと。そう聞くと、特別な存在のように感じるかもしれませんが、誰でもセンテナリアン、つまり100年以上元気に過ごせる可能性があるのです。

最近、センテナリアンについての研究が進み、体質ではなく生活習慣が強く健康長寿に関係していることがわかってきました。デンマークで双子を追跡調査して寿命と遺伝子や環境の影響を調べたところ、寿命に影響を及ぼすのは遺伝要因が20〜30%、環境要因が70〜80%という結果だったのです。

健康長寿は「自分自身の生活習慣にかかっている」といっても過言ではありません。

世界歴代最高齢の記録は、フランスのジャンヌ・カルマンさんという女性です。1875年生まれの1997年没ですから、122歳164日を生き抜きました。生前、彼女は「どうすれば長生きできるのですか?」という質問に、「病気にならないこと」と答えています。いたってシンプルですが、これこそが健康長寿の秘訣です。

病気になってしまってから治すのは大変ですが、「病気を予防すること」はふだんの生活習慣に気をつけることで可能性が高まります。ここでもやはり生活習慣がカギとなっています。

実は、「病気にならない」ための医学が存在します。健康を損ねる因子を取り除き、病気を防ぐことを目的とした医学で「予防医学」と呼ばれます。

食生活、運動、睡眠といった生活習慣を改善し、病気にならない体をつくることが、予防医学の目的で、いま注目され始めています。医学が目覚ましく進歩しても、日本人の死因の上位を占めるがん、心疾患、脳血管疾患など、生活習慣が大きく関係する病気の根本的な治癒は、いまだに難しい状況であり、だからこそ予防の重要性が注目されているのです。

食べる、歩く、動くが
センテナリアンの秘訣
加齢医学専門の白澤卓二先生の調査・研究によると、センテナリアンは、皆さん独自の健康法を確立し、それを実践されていたそうです。例えば、「食事に気をつけている」「体をよく動かしている」「人生の目的を持っている」など、さまざまです。また、日本人の元気なセンテナリアンの90%近くが女性という、興味深いデータもあります。

健康長寿に良いことはたくさんありますが、さまざまな研究から、「適切な食事」「適度な運動」が健康長寿の要となることがわかってきました。

適切な食事とはどんなものでしょうか。食事については、体質や性別、年齢、持病の有無などで異なりますが、あえて挙げるとすれば、加工食品を避け、旬の食品をバランスよく食べることでしょうか。

適度な運動は、激しいトレーニングや長時間の運動を思い浮かべるかもしれませんが、歩くことも立派な運動です。厚生労働省が目標としている運動量は、1日1万歩の歩行。とはいえ、車や電車、バスなど移動手段が発達した現代で、1日に1万歩を歩くのはなかなか大変なことです。2014年の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、成人の1日の歩数は男性7860歩、女性は6794歩とかなり不足しています。そのため、現在は1日に1500歩の増加を目指すよう勧めています。10分歩くとおよそ1000歩になるので、まずはプラス15分歩くことから始めてみましょう。

もちろん、食事や運動以外にも、健康長寿に役立つことはたくさんあります。食べ方も関係しますし、睡眠も大事です。ストレスだってあなたの健康に大きな影響を与えます。口腔のケアをしているかどうかが、糖尿病などほかの病気に影響することもわかっています。最近は天気で体調が左右される人も増えているそうです。

次号からは、病気や症状別に、予防医学のキーワードを紹介していきたいと思います。いつまでも旅ができる元気なカラダ作りのために……。

しらさわ たくじ●1982年千葉大学医学部卒業後、東京都老人総合研究所などを経て、
2007年より順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。
2015年より白澤抗加齢医学研究所所長。米国ミシガン大学神経学客員教授。
www.shirasawa-acl.net

(ノジュール2017年1月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
ご注文はこちら