[エッセイ]旅の記憶 vol.54

ハワイ島で地球のエネルギーを感じる

稲田美織

予期せずに、ハワイ島ヒロ空港到着直後、すぐに案内されたのは、1898年に創建されたヒロ大神宮であった。私は9・11をNYの自宅で目撃して以来、世界中の聖地を撮影し、その後不思議な経緯で伊勢神宮に導かれて、12年間撮影をさせていただいている。しかし、ハワイ島で最初に訪れたのが、なんと天照大御神と豊受大御神を祀る日本国外で最古の神社とは。また神社の各座席の棚には、私が8年前に写真を担当した神社本庁が出版した本が置いてあり、海を越えた同志との再会に、見えざる大いなる手の存在を感じた。

ハワイ島は約40万年前に誕生し、ハワイ諸島では一番新しい島。そして世界中の13の気候帯のうち、7つが存在するのだという。3つの聖山はハワイアンにとって神そのものである。

キラウエア火山は現在も活発に活動し、大地を生み続けている。ハレマウマウ火口は夜になると、赤い火炎が暗闇に浮かび上がり、私たちを地球内部へ誘う入口のようで、地球が生きていることを教えてくれる。ペレの神話にも出てくる、火口から噴き出す溶岩のような形の赤い花・オヒアレフアは、ハワイ島の誕生以来植生し、噴火口からの毒ガスからも身を守って逞しく生きぬいてきた。地球の内部からエネルギーがこの地に吹き出し、その力はあらゆる生命に力を与えているようだった。

初めてマウナ・ロア山が目の前に現れた時に、私は宇宙で惑星を見ているのかと思った。その山の体積は世界一で、存在感は想像するスケールを遥かに超えていた。

もう一つのマウナ・ケア山は海底から続く山なので、実はエベレストより高く1万205mの世界一の山なのだという。3日前に雪が降ったのだが、奇跡的に雪が解けたことで、頂上登頂が許可され、海原に沈む太陽と満天の星を撮影することができた。私は生まれて初めて、足元から広がる星空を見た。その光景を一生忘れることは出来ないだろう。また暗闇の遥か向こうに火炎を上げるキラウエア火山の真っ赤な火口を見ることもできた。丁度その上から天の川が立ち上がり天に向っている。自分は宇宙の真ん中にいるのだと思った。

ある日の夜、火山国立公園から車で走っていると、右手から大きな満月が昇ってきた。その月光の中、溶岩は青く美しく妖しくうごめいていた。ふと、その反対の山を見ると、なんと虹が出ているではないか。しかもその周りにはあらゆる星座が煌めいていた。

私はこの島で、毎日地球を感じていたのだ。


イラスト:サカモトセイジ

いなた みおり●写真家。多摩美術大学油絵科卒業。1991年からNYで写真家として活動を開始。
2001年のNY同時多発テロを目撃して以来、世界中の祈りの聖地を訪れ撮影を行っている。
ネイティブインディアンの地、マヤ遺跡、ギリシャ、トルコ、アンコールワット、イスラエル、パレスチナ、ウクライナ、そして伊勢の神宮へと辿り着く。
05年より伊勢神宮式年遷宮の撮影を開始。
国連、ハーバード大学、コロンビア大学、外国人特派員協会、イスラエル美術館などで開いた展覧会も好評。

(ノジュール2017年6月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
ご注文はこちら