いつまでも元気に旅しよう!病に勝つカラダ 第9回

いつまでも若々しく元気に活動したいし、旅行にも出かけたい。
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野菜から食べて健康に

佐藤純先生
(文:大政智子 イラスト:安齋 肇)

雨が降る前や後は頭痛やめまいがする。疲れやすい、イライラする、憂うつな気分になる……。
そんな経験はないでしょうか。
天気の変化で起こる不調は、内耳が気圧の変化に過敏に反応して起こります。
“天気痛”と呼ばれる不調がどうして起こるのか?最新情報をご紹介します。

天気の変化で起こる不調は内耳が原因台風の時期には頭痛やめまいがひどい、だるくて起き上がれない、雨の日はなんとなくイライラして憂うつな気分になる……。こうした天気の変化によって起こる不調は、これまで「気象病」と呼ばれていました。

愛知医科大学医学部の佐藤純客員教授は、気象病のなかでも「気圧の変動」で起こる不調に注目。これを“天気痛”と名付けて長年、研究と治療を続けています。

佐藤教授の研究によると、「内耳の内部に気圧を感知するセンサーがあり、これが敏感な人や自律神経が乱れやすい人ほど“天気痛”を起こしやすい」とのこと。気圧の変化を体がストレスとして感じると、交感神経が興奮して痛み神経を刺激し、頭痛や腰痛、過去のケガや傷の痛みなどさまざまな苦痛を感じます。さらに、その反動で副交感神経が興奮すると、強い眠気や倦怠感などが起こるそうです。

佐藤教授は、内耳の平衡感覚を司る前庭(ぜんてい)や三半規管(さんはんきかん)が集まるあたりに、気圧センサーがあると推察しています。

乗り物酔いのメカニズムも同様で、乗り物酔いは、内耳が乗り物による揺れを体の揺れと誤認して前庭神経が興奮し、本当は体は動いていないので脳に感覚のずれが生じ、それが自律神経に伝わって頭痛やめまい、吐き気を引き起こすのです。

こうした症状は前庭に由来するので「前庭症状」と呼ばれます。

実は、“天気痛”に圧倒的に多い片頭痛は、この前庭症状を伴うケースが多く、最近は「前庭性片頭痛」と呼ばれ、専門家の間ではほかの頭痛と区別されています。

前庭に由来する症状は、通常の頭痛薬が効きにくく、内耳に作用するめまい薬や市販の酔い止め薬を飲むと症状が緩和する傾向があります。

また、自律神経を整えるツボを刺激したり、ふだんから内耳の血流をよくするマッサージを行ったりすることで症状が軽くなります。

佐藤先生の経験によると、天気による不調に原因があるとわかるだけで、症状が軽くなる患者さんもいるそうです。最近は、気圧の変化を予測する「天気アプリ」が登場。人気があるのは「頭痛ーる(ずつーる)」という無料アプリ。これらを利用して、気圧の変動と自分の体調を比較して、仕事や遊びの予定をたてる人も増えています。

マッサージやツボ刺激で内耳を整える“天気痛”の症状は多岐にわたり、個人差が大きいので、天気痛に詳しい医師の診察や治療を受けるのが理想ですが、残念ながら現在、受診できる機関は限られています。

ここでは、佐藤教授が考案した、自宅で手軽にでき、効果が出やすい予防法を2つ紹介します。

ツボ刺激

耳のうしろを指の腹でなでるようにして刺激します。耳のうしろには頭竅陰(あたまきょういん)、完骨(かんこつ)、翳風(えいふう)など、自律神経を整えるツボが集まっているので、ふだんから刺激すると天気痛の予防に役立ちます。

くるくる耳マッサージ

内耳が敏感になる要因のひとつは、内耳の血流が悪くなっていること。耳をマッサージすると内耳の血流がよくなり、内耳の気圧センサーや自律神経のバランスが整い、天気痛の予防や改善につながります。1日3回、朝昼晩に行いましょう。

  1. 両方の耳たぶを親指と人差し指で軽くつまみ、上・下・横に、それぞれ5秒ずつ引っぱる。
  2. 耳たぶを軽く横に引っぱりながら、後ろ方向に5回、ゆっくりと回す。
  3. 耳を包むように折り曲げて、5秒間キープする。
  4. 手のひらで耳全体を覆い、後ろ方向に円を描くようにして、ゆっくりと5回、回す。

“天気の変化はどうしようもない”“体質だからしょうがない”とあきらめている人も多いと思いますが、天気はコントロールできなくても、ツボ刺激やマッサージは自分でできます。どちらも、いつでも、どこでも簡単にできるのでぜひ試してみてください。

さとうじゅん●愛知医科大学医学部客員教授。
自律神経性疼痛の研究を長年行い、気圧による不調を“天気痛”と名付け、日本初の天気痛専門外来を開設。
メカニズムや治療の啓蒙に努める。著書に『天気痛』(光文社新書)など。
https://www.天気痛ドクター.com

(ノジュール2017年9月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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