いつまでも元気に旅しよう!病に勝つカラダ 第10回
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花粉症対策と聞くと、暖かくなってからというイメージがありますが、秋から始める治療もあります。2014年から保険適用となった〝舌下免疫療法〟。アレルギー体質の根本的な改善、また、症状を軽くするために、花粉が飛び始める前に始める、効果が高く、負担が少ない最新治療法をご紹介します。
アレルギー体質をジワジワ改善する春先になるとマスクをしている人がぐっと増え、花粉症がある人は「またしばらくつらい時期が続くのか…」と憂うつな気分に陥ることでしょう。半年も先の話を…?と思うかもしれませんが、秋のうちから始めたいスギ花粉対策があります。
現在の花粉症の治療は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどのつらい症状を薬で抑える「対症療法」が中心です。なかには、医療機関を受診することなく、市販薬で乗り切る人も少なくありません。
薬で症状を抑えるのも選択肢のひとつですが、これは薬で症状を一時的に抑えているだけで、アレルギー体質を改善する訳ではありません。いわば、花粉が飛んでいる時期を乗り切るための一時しのぎにすぎません。
実は、花粉症の治療には、根本的なアレルギー体質の改善を目的とするものがあります。「アレルゲン免疫療法」と呼ばれ、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を少量投与して、体をアレルゲンに慣らし、症状を和らげたり、根本的な体質改善を期待する治療法です。数年前まではアレルゲンを注射する方法しかなく、注射するときの痛み、頻繁な通院が必要になる、アナフィラキシーショックと呼ばれる重篤なアレルギー反応が起こるおそれがあるなど、患者さんの負担が大きいことがデメリットでした。
ところが、そうした問題点をクリアした新しいアレルゲン免疫療法である「舌下(ぜっか)免疫療法」が、2014年に保険適用となり注目を集めています。舌の下にエキスを数滴落とすだけなので痛みもなく、通院は1〜2ヵ月に1回、アナフィラキシーショックの発現も極めてまれであり、患者さんの負担が少ないという魅力的な治療法です。
池袋大谷クリニック院長の大谷義夫先生は、治療したスギ花粉症患者の2割が完治し、6割は症状が改善するので、全体の8割に効果があるだろうと言います。毎年、辛い症状で悩んでいるなら、試す価値はあるでしょう。
ただ、「舌下免疫療法」は花粉が飛び始める前、遅くとも11月には治療を始める必要があります。また、3〜5年と長期間の服用が必要で、モチベーションを維持できるかがカギとなります。エキスを服用するだけですし、通院の回数も少ないので、習慣にすればそれほど負担にはならないでしょう。
舌の下に薬を落とすだけでOK現在、保険適用となっている「舌下免疫療法」は、アレルゲンが「スギ」と「ダニ」の場合です。
治療を受ける際には、必ず事前にアレルゲンの検査を受けます。アレルゲンがスギ(ダニ)と確定され、年齢が12歳以上であれば「舌下免疫療法」を受けることができます。
スギやダニがアレルゲンでない場合は、効果がないので治療を受けることはできません。8割が改善するなど、特に治療効果が高いのはスギアレルギーで、アレルゲンが複数ある場合は効果が出にくい傾向があります。
服用方法はいたって簡単で、エキスを舌の裏側にたらし、一定の時間をおいて飲み込みます。その後、5分間は飲食やうがいなどを控えます。患者さんのなかには苦くて飲み込めないという人もいますが、飲み込まなくても効果があるので心配ありません。
最初は1日1回、少量の服用から始めます。初めて服用する際は、医療機関で医師の確認の元で行うので、万が一、アナフィラキシーショックが発現したとしても対処してもらえます。服用してから30分ほど様子をみて、問題ないようだったらそのまま帰宅し、2日目以降は自宅で服用します。
薬を服用する前後2時間程度は激しい運動、飲酒、入浴を控えますが、それ以外に制限はありません。自宅で手軽にできるのはとても魅力的です。
花粉症やアレルギー性鼻炎のアレルゲンはスギやダニだけでなく、ブタクサ、シラカバ、ハウスダストなどさまざまです。すべての人に効果がある訳ではありませんが、根気よく続けているとアレルギー体質が改善したり、症状が和らぎます。薬の服用を減らせる可能性もあります。スギアレルギーに悩んでいる方は、この秋から試してみてはいかがでしょうか。
おおたに よしお●池袋大谷クリニック院長。
群馬大学医学部卒業後、九段坂病院内科医長、東京医科歯科大学呼吸器内科医局長などを経て2009年にクリニック開院。
テレビ、ラジオ、新聞などメディアへの出演も多く、呼吸器、アレルギーの専門医として知られている。著書に『長引くセキはカゼではない』(KADOKAWA)など。
http://otani-clinic.com/