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女性も安心! 人気の秘密は?

冬の後生掛温泉“プチ湯治”

文:のかたあきこ 写真:木下清隆

秋田県の後生掛温泉は、最近女性の湯治客が増えているとか……。
今年100周年を迎えた“元祖・湯治場”の魅力はどこにあるのか?
旅ジャーナリスト・のかたあきこさんが、プチ当時体験へ。

後生掛名物「オンドル」って
なんだ?
秋田と岩手県境に広がる八幡平(はちまんたい)には、ふけの湯、玉川温泉、藤七(とうしち)温泉などの名湯が点在し、古くから湯治客に親しまれている。雪深く宿の多くが冬季休業となるが、今回出かけた後生掛(ごしょうがけ)温泉はアクセスに恵まれ、早くから温泉熱による暖房を整えたことなどが幸いし、通年で営業している。

JR鹿角花輪(かづのはなわ)駅から送迎車で約40分。山道を上がるにつれダケカンバが多くなり標高1000mへ。ほどなくして立ち上る湯煙の中に宿が現れた。

この、大地からの噴気こそが後生掛名物「オンドル部屋」の熱源である。「オンドル」とは、朝鮮半島などにみられる窯の煙を利用した床下暖房のこと。後生掛のオンドルの仕組みはもっと原始的で、地熱の上にシートを貼り、砂をかけゴザを敷く。横たわれば温泉入浴の効果があるという。

宿にはオンドルの個室と大部屋を用意する「湯治部」、1泊2食形式で全27室の「旅館部」がある。6代目の女将・阿部愛恵(あべよしえ)さんは、「温泉と皆様に支えられ、2018年4月に創業100年を迎えました。これを機にオンドル大部屋のひとつ鈴蘭寮を、全室個室にリニューアルしたんです」と話す。

湯治施設は全国的に貴重だ。利用者減少や採算課題を抱えるからだ。そんなご時勢にあえて湯治部を改装したことに興味を持った。オンドルも体験してみたい!

旅館部脇の坂道を下ると「湯治村」の門があり、フロントに続く。浴衣や調理道具などをレンタルして、鈴蘭寮1階にあるオンドル個室へ向かった。今日から3泊する〝わが城〞だ。その第一歩から相当暖かい。直接床に座るだけで汗ばむほど。4畳ほどの部屋に小さな棚と座卓があり、布団一式が置かれている。常連さんからは「オンドル部屋、大正解!暑い時は窓を開けて調節して」とのアドバイス。雪景色でも、部屋では半袖だという常連さんの話にまず驚いた。

調理場で“仲間の輪”が
広がっていく
裏手に広がる後生掛自然研究路を歩けば、温泉のパワーがどれほどすごいかを思い知る。噴気孔や地獄、泥火山など様々な火山現象が間近で見られるのだ。冬は事前予約でスノーシューでのガイド案内もあるそうだ。

噴出口のひとつ「オナメ・モトメ」は宿に7つある風呂の源泉。高温の単純硫黄泉を沢の水で冷まし、大浴場や露天風呂に掛け流している。体が芯から温まることで冷えからくる不調を整える。神経痛やリウマチをはじめ、交通事故による後遺症、腰痛やひざ関節痛、更年期症状やアトピー、喘息にも効果が期待できるという。なめらかな感触で肌が整うのも嬉しい。長年湯治部に勤めている成田正彦さんは、「湯治はひと月とよく言われますが、常連さんのお声を聞いていますと、うちは一度に1週間から10日の滞在を年に2度がいちばん効果的のようです」と話す。

療養目的が1番の目玉とはいえ、なかなかまとまった滞在も難しいのが現実。中には出張ついでや登山、温泉めぐりの拠点にする人も多いとか。名湯にリーズナブルに泊まれるので、まずは気楽に2〜3日滞在してみるのがおすすめ。

湯治部では、食事は自炊か食堂利用。「毎日自炊しているから旅先では楽をしたい」と話す食堂で出会った女性3人組は、「健康は、体を動かすこと、旬を味わうこと、お喋りすることが大事」だそうだ。

調理場を覗いてみると、それぞれにこだわりがあって楽しい。地元ワインを買ってバゲットとチーズとハムでおしゃれに仕上げる女性、手際よくカレーを作る登山グループ、フライパンで上手にトーストを焼いていた女性は、「トースターなんてない昔、母がこうして焼いてくれたわ」と思い出話も。初めて出会う仲間たちとのこんな交流も、湯治部の醍醐味だ。

私はと言うと、いろいろ不慣れ。それでも鹿角発祥のきりたんぽや温泉たまごの料理に挑戦。心配した達人らが果物や蒸し野菜などを持ち寄って集まってくれる。こちらの御礼は東京の菓子。物々交換は心の交流でもあった。

(ノジュール2018年12月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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