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こだわり1万円宿 第34回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

富山県

与茂四郎(よもしろう)

ササラの音色が響く世界遺産の合掌造り集落

深い雪が似合う
合掌造りの古民家民宿
相倉(あいのくら)口で白川郷行きの世界遺産バスから降り、緩い坂を登ると行く手に合掌造りが見えてきた。まず宿へ向かう。3月上旬だったが、積雪は1mほど。これで、平年並みらしい。

目指す民宿・与茂四郎(よもしろう)は、集落のほぼ中央にあった。玄関に入り大声で挨拶すると、笑顔の女将に続いてご主人も顔を見せた。4部屋あるうち、奥の6畳間へ案内された。

隣室とは襖一枚だが、合掌造りの民宿では当たり前のこと。

囲炉裏の間へ行くと、お茶とお菓子が用意されていた。到着したばかりの、香港人のカップルも一緒。合掌造りの宿は外国人の人気が高く、特に冬場は比率が高まるが、五箇山(ごかやま)も例外ではなかった。

明るいうちに、相倉集落をゆっくりと歩いておきたい。地図を片手に、1時間で相倉全体を巡り終えた。白川郷ほど広くなく、散策するのにちょうどいい規模だ。

夕食は、相客6人が囲炉裏を取り巻いて座り、ご主人が料理の説明をしてくれた。「このイワナは、1時間以上かけて炉端で焼き上げたものです。頭からすべて食べられます」

火は通っているが、身はしっとりとした旨みが凝縮され、頭や尻尾は香ばしくサクサクと崩れる。ついつい酒が進んでしまう。「これは、五箇山伝統の堅豆腐です。昔はもっと堅くて、縄で縛って運ぶことができました」

ごま和えの緑っぽい野菜はヤマウドで、口の中で独特の香りとほろ苦さが広がった。

煮物は、山菜の王様ゼンマイと女王のネマガリタケのタケノコ、肉厚シイタケ、ニンジン、豆腐など。7種類ほどの精進揚げも、揚げたてでサックリ熱々。「サツマイモとカボチャは、私が畑で作ったものです」

炉端で相客と聞き入る
コキリコ節の調べ
その他にも、身が厚くぷっくらとしたコイのあらいやキクラゲと蛇腹きゅうりの酢の物、焼き畑由来の赤カブの漬物、ナメコと豆腐の味噌汁などが並んだ。

新春は採れたての山菜が、秋にはコケ(きのこ類)など山の恵みも味わえるという。

ご主人がさりげなくリードしてくれるので、初めての相客同士も自然に会話が弾む。卒業旅行で来ていた大学生にこの宿を選んだ理由を聞くと、アメニティが一番よさそうだったからとのこと。

夕食が一段落すると、ご主人が五箇山名物のササラを2種類もってきて、説明しながら鳴らしはじめ、やがてコキリコ節を唄いだした。本場の民謡を炉端でしみじみと味わううちに、ライトアップされる菅沼へ行く時間になった。

今日は都合がついたからと、宿の人が近くの菅沼まで送ってくれた。帰りは、高岡行きの臨時バスに乗り、相倉口で降りればいい。

雪の舞う幻想的な菅沼から宿へ戻り、順番に湯に浸かった。その後、炉端でお茶を飲みながら、相客たちと日本や海外の旅の情報交換をして大いに盛り上がった。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書に『日本の島産業・戦争遺産』、『日本《島旅》紀行』、『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2019年1月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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