お悩み解決！旅するカラダ 第29回

日本における糖尿病の患者数は、
予備軍を含めると２０００万人を超えるという報告もあります。
その治療に、近年高い効果を示している
糖質制限食について解説します。

国民病となった糖尿病

糖尿病はインスリンの作用が低下し、
血糖値が下がらなくなる病気です。
命にかかわる合併症を引き起こすため、
長期に及ぶ血糖値のコントロールが欠かせません。

辛くて非現実的な
カロリー制限食食後、食品中の糖質によって血液中のブドウ糖が増加し、血糖値は上昇します。ただし、通常は膵臓から分泌されるインスリンによって血糖値は低下するので心配ありません。

ところが、主に遺伝的な要因によって、インスリンの分泌量が低下したり、効きが悪くなったりすると、高血糖の状態が続きます。それでも短期的に見れば痛くも痒くもありませんが、高血糖の状態が長年続くと、血管がボロボロになってしまうのです。それが「糖尿病」です。最悪の場合、失明や人工透析、さらには、心筋梗塞や脳卒中などの死に至るような合併症を引き起こすこともあります。

残念ながら、糖尿病を完全に治すことはできません。血糖値をコントロールして、合併症を防ぐことが治療の最大の目標です。

主な治療法には、インスリンや経口糖尿病薬、それに食事療法や運動療法などがあります。しかも、いったん糖尿病にかかってしまえば、これらの治療を一生続けなければなりません。インスリンは食前に自ら注射しなければならず、経口糖尿病薬の中にはかえって膵臓を疲弊させるものもあり、血糖値をコントロールするには食事療法との併用が欠かせないのです。

これまでの食事療法といえば、１日の摂取カロリーの総量を症状に応じて１２００〜１８００㎉に制限するものでした。厳しいカロリー制限は常に空腹感との戦いを強いられ、断念する人が続出し、簡単には続けられませんでした。しかも、血糖値を上昇させるのはカロリーではなく糖質なので、実は的はずれな考え方なのです。

たとえ継続できたとしても、糖質を含む食事では十分に血糖値が下がらず、結局、糖尿病を悪化させる人は減りませんでした。今こそ、根本的に治療法を改善しなければなりません。そこで登場したのが糖質制限食です。

高い効果を示す糖質制限食

糖質制限食は、２０１３年に米国糖尿病学会で
糖尿病の食事療法のひとつとして正式に認められました。
肥満や様々な生活習慣病などにも効果があるとして注目されています。

糖質に気をつけて
食品を選ぶ血糖値を上昇させるのは三大栄養素において糖質だけで、食事の直後から吸収され１２０分以内に１００％が血糖に変わります。たんぱく質と脂質は摂取しても直接血糖値に影響を与えることはありません。例えば、カロリーの低いお茶漬けを１杯食べただけでも血糖値は急上昇しますが、ステーキをいくら食べても血糖値はほとんど上昇しません。

糖質制限食はとても簡単です。糖質を多量に含む米やパン、うどんやそば、ラーメンなどの麺類、菓子、砂糖などさえ控えれば、たんぱく質や脂質を主成分とする肉や魚介、豆腐、チーズなどはしっかりと食べても大丈夫です。野菜や海草などは適量、糖質の多い果物は少量に制限します。日本酒やビールなどの醸造酒、ジュースなども糖質を含んでいるので飲めませんが、ウイスキーや焼酎などの蒸留酒は糖質がないので飲んでもかまいません。

まず、この事実を２週間ほどの体験入院によって実感してもらいます。入院が難しい人は、しばらくの間、糖質制限食を続けてから検査を受けてみてください。血糖自己測定器を持っている人は、実際に計測してみましょう。その効果に驚くはずです。

即効性があり、劇的に食後血糖値が低下します。過去１〜２ヵ月間の平均血糖値を反映するＨヘモグロビンｂＡエー１ワンｃシーも月に１％くらい改善し、将来における合併症の発症を予防できます。

これまでごく一部の例外を除いて、ほぼ全員の患者さんがインスリンや経口糖尿病薬の減量、もしくは離脱に成功してきました。日本の糖尿病治療はまだカロリー制限による食事療法が中心で、糖質制限食に異を唱える医師も少なくありません。自身が糖尿病を抱える医師ほど、糖質制限食の効果を実感し、導入しています。

なお、インスリン注射や糖尿病薬を内服している人は、減薬せずに糖質制限をすると低血糖を起こす可能性もあるので、医師との相談が必要です。また、肝硬変や診断基準を満たす膵炎、長鎖脂肪酸代謝異常症（ちょうさしぼうさんたいしゃいじょうしょう）の方は適応外となります。

糖質を制限することで、食事におけるたんぱく質摂取の割合は高くなりますから、糖尿病による腎障害が進行している人は、医師と相談して実施するか否かを決めるといいでしょう。

（ノジュール2016年3月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。）