こだわり1万円宿 第1回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

北海道礼文島

FIELD INN 星観荘

旅人同志の交流が盛んな
礼文島の宿

充実の料理すら忘れる
美しい夕陽
香深(かふか)港から北へ向かってひたすら走り続けた送迎車が、最北端のスコトン岬が見える高台に差し掛かると、日本海を一望する草原の中に独りポツンとたたずむ星観荘(せいかんそう)が現れた。宿では朝夕2回、フェリーの発着に合わせて、港まで送迎車を走らせている。

基本的には男女別の相部屋で、2段ベッド8人定員の部屋が二つと和室洋室が一つずつ。混雑していなければ、追加料金で和室洋室は占有することもできる。自分のベッドが決まると、枕カバーをかけシーツを敷いて一段落。2段ベッドだが、それぞれに荷物を置く棚や読書灯、電源などが備わっているので不便はない。風呂は、一度に2人ほど入れる大きめのユニットバスが男女一つずつ。

ひと休みしていると19時頃、夕食の準備ができたという放送が流れ、みんな食堂兼ミーティングルーム(通称ブラックホール)に集まった。最近高騰している礼文島名産のウニも少しつくが、希望者は追加料金(時価)を払えば、ご飯を小さなウニ丼にしてもらうこともできる。ただし、ウニ漁がない時は対応できないが。

夕食も朝食も毎回メニューが張り出される。ある日の夕食は、鮭のルイベとツブガイの刺身、生ホッケの煮つけ、生ウニ、ナマコ酢、ズワイガニ、トマトとアスパラのサラダ、豚肉と野菜の炒めものに、カジカの味噌汁、紅茶ゼリーなど。意識的に地元食材を使った充実の料理は、この料金でよく頑張っていると感心する。

夏場は、目の前の日本海に素晴らしい夕陽が沈むことも多い。そうなると、皆で食事を一時中断し、カメラを片手に外へ飛び出す。礼文島の中でも数少ない夕陽の宿なのだ。水平線に消える落日も美しいが、少しの雲が趣を添えてくれることもある。宿名の通り、星空の美しさも絶品だ。

夜の楽しみ
〝情報交換会〞
食事が終わってしばらくすると、ブラックホールでミーティングがある。自己紹介と朝食を和洋どちらにするか、明日の予定や弁当の有無の確認が中心。一人旅が多く、いつも全員が参加して情報交換する。岬巡りしたい、礼文滝へ行きたい、桃岩から知床の辺りを歩きたいなどと話すと、では一緒に歩きましょうかとなることも多い。高山植物の開花や歩くコースの情報は、礼文島の宿で一番豊富と言っていいだろう。

ミーティングの後はフリータイムだが、ほとんどの人はそのまま居残って持ち寄りのアルコールやソフトドリンクを飲みながら、ディープな礼文島情報、北海道にとどまらず全国、時には全世界の旅情報交換会となる。何十年と礼文島に通い続けている人もおり、「最近、旅人も高齢化したね」なんて話が出るのもご愛嬌だ。消灯は23時で、その後起きていたい人は自分のベッドで過ごせばいい。

朝の船便に合わせて送迎するので、朝食は6時半から。遅くとも7時半前には、宿を出発する。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書に『日本《島旅》紀行』『吐噶喇列島』『旬の魚を食べ歩く』『島で空を見ていた』。
近著は『島̶瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』

(ノジュール2016年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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