こだわり1万円宿 第12回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

岡山県

Ile d’or Cafe & Guesthouse
(イルドールカフェアンドゲストハウス)

笠岡諸島・大飛島にオープンした週末限定のゲストハウス

周囲約6㎞、人口60人
小さな島の隠れ宿
笠岡から乗った船が大飛島の洲に到着すると、宿のご主人金島孝和さんが、笑顔で迎えてくれた。

クルマは、3、4分で、こぢんまりした一軒家の前に止まった。フランス語で、イルドール(金の島)と書かれた青い看板がある。

玄関の先は食堂だった。土・日曜のみ営業のカフェのランチもここで提供する。宿泊は、金・土・日3日間の対応だ。ご夫妻は笠岡の北の井原から、週末島へ通っているという。

宿帳に記入して、お茶とお菓子をいただいた。その時、女将の佳代子さんが、拙著『瀬戸内海島旅入門』をもってきて「この本を書いた斎藤さんですよね」と言われたのには驚いた。「イベントの手伝いでこの島へ来て気に入り、別荘を探していてこの家に出会ったんですよ」

東に面した海辺の高台にポツンと建つ一軒家に惚れ込み、女将が週末ここで店と宿をやってみたいとご主人に相談したところ、すぐに賛成してくれた。購入は断られたが借りることはできて、宿用にリフォームして開業に至った。

一息ついたところで、女将に案内されて台所を抜け、洗面所と風呂場を教えてもらい、2階へ上がった。客室は、1階に1部屋、2階に2部屋の全3室。2階の突き当りが、今夜の部屋だった。

広さは8畳ほどの板の間に、ベッドと小さなテーブル、カーペット、衣装掛け、ごみ箱などが備え付けてあるだけで、いたってシンプル。天井の一部が斜めになった屋根裏部屋風の造りも、楽しい。

何もないから
体験できる
極上の
リラックスタイム
テレビもお茶も、寝間着や部屋の鍵もないが、それは予約時に聞いている。部屋で寛いで風呂へ。

食堂は1ヵ所なので、同宿の客は一緒に食卓を囲むことになる。神戸のカップルと、広島の一人旅が相客で、宿主夫妻がうまくリードしてくれ、国内外の旅や瀬戸内の美味の話で盛り上がった。

並んだのは、温野菜、マダコの柔らか煮、豆腐としめじのチーズグラタン、生ダコの刺身、マダコのから揚げ、ローストビーフ、カブのスープ、マダコと黒オリーブの洋風たこ飯、デザートなど。

蛸壺漁をやっている島人から仕入れた生きた地ダコを利用したタコ尽くしが、看板料理だ。また、飲み物は生ビール、チューハイ、日本酒、焼酎などを置いているが、食料も含め持ち込みは自由。自炊したい人は1000円でキッチンを借りることもできる。

部屋に戻って空を見上げると、満天の星が降ってきそうだった。

日の出は7時頃と聞いていたので、部屋のベッドに寝転んで少し前からスタンバイ。やや雲があったので、太陽が見えたのは7時15分過ぎだった。適度な雲のおかげで変化に富んだ朝日と洩れる光のシンフォニーを楽しんでいたら、朝食時間の8時になっていた。

朝日が望めるのはこの部屋と食堂だけなので、希望者は予約の時に確かめておくといい。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2017年3月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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