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日本で唯一飛べない鳥

ヤンバルクイナといつまでも

文=山口あゆみ(スケープス) 写真=入江啓祐

やんばるのシンボル的動物といえば、ヤンバルクイナだろう。クイナは世界中に約130種いるといわれるが、ヤンバルクイナは北部3村の森にだけ生息しており、クイナ生息の北限だ。日本で唯一飛べない鳥でもある。やんばるの森にはハブ以外に天敵がいなかったため、飛ばなくなったのだ。夜はハブを恐れて木に登って寝ている。

ヤンバルクイナに森で出合うのはなかなか難しいが、国頭村安田〈あだ〉区にある、ヤンバルクイナ生態展示学習施設で会うことができる。生息地の環境を再現した施設で暮らすクー太くんは野生ではないため、人を恐れず、ガラス越しにさまざまな行動を観察できる。

40年にわたって保護活動に携わってきた比嘉明男〈ひがあきお〉理事長に話を聞いた。「安田周辺の森にはもともとヤンバルクイナが多く生息し、朝には高い声で鳴くのがよく聞こえていたものです。ヤンバルクイナの絶滅を防ぐためには、森の自然環境保護が必須。それで国頭村とともに森を守る活動を始めました」

その一環でヤンバルクイナの姿を知ってもらい、その貴重さを学ぶための施設も整備した。1981年に新種として発表されたときは1800羽ほどいると推定されたヤンバルクイナ。だが一時、700羽ほどにまで減少。絶滅が危惧された。「その一番の原因は、明治43年(1910)にハブ退治のために那覇周辺で放たれたマングースでした」最初17匹だったマングースは北上し、1990年代にとうとう北部の森に。マングースはハブを食べず、飛ぶことができないヤンバルクイナがその犠牲になった。「マングースの北上を防ぐため、半島を横断する防止柵を設置、地域を8つに分けてエリアごとに排除してゆきました。費用もかかり、当初は『自然保護でメシが食えるか』という反対の声も多かったのです」

環境省と沖縄県が柵や捕獲罠を設置、探索犬を使うなど地道な努力が実り、現在ヤンバルクイナは1600羽程度まで回復。2026年までにマングース完全排除を目指している。「捨てられた犬やネコの問題も大きかった。ペットが野生化するとヤンバルクイナをはじめ貴重な生き物を食べてしまう。北部3村では飼いネコに必ずマイクロチップをつけるネコ条例を全国で最初に取り入れました。悪いのは、マングースでもネコでもない。かわいいヤンバルクイナを追い詰めているのは人間です」

比嘉さんにこれまでの長い道のりと、そのモチベーションを聞いた。「私が高校生だった1970年、安田集落の背後にある伊い部ぶ岳だけが米軍の実弾演習地になる計画が持ち上がりました。そうなれば山はハゲ山になってしまいます。そのとき、集落が一致団結して命をかけて抗議し、演習は中止となりました。そのように先人が必死で守ってきた森を、次の世代に渡さなくてはという思いが原動力です」

現在、伊部岳周辺はヤンバルクイナが多く生息するエリアとなっている。

(ノジュール2021年8月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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