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目の前の竈で炊き上げたご飯とブランド牛「但馬玄」を堪能
有馬温泉 ホテル花小宿
文=清塚あきこ 写真=廣森完哉
歴史ある木造建築の宿なのでどこもすてきですが、特に神戸開港期の外国人専用ホテルの風情を感じられる2階の洋室がおすすめ。
竈や炭火で調理し、熱々をカウンターで味わえる食事は割烹料亭にいるような喜び。
明石浦漁港でせり落とした魚介や、但馬牛、自家栽培の野菜や米など、上質な素材を使った料理はしみじみとおいしい。
日本最古の温泉・有馬で
最も小さな和風ホテル自分を癒やすための旅に欠かせないものといえば、やはり、身も心も楽しませてくれるおいしい食事。上質な温泉に浸かり、その土地の素材を生かした料理を味わえば、それだけで満足度の高い旅になる。また、ひとり旅ならば小さめの宿を選ぶことをおすすめしたい。ほどよい距離感で人の気配が感じられるため、安心して「ひとり」を満喫できるから。兵庫県の有馬温泉にあるホテル花小宿は、そんな美食を求めるひとり旅にぴったりの宿だ。
ホテル花小宿は、文豪・谷崎潤一郎〈たにざきじゅんいちろう〉の『細雪〈ささめゆき〉』に登場する「花の坊旅館」の跡地に建てられた旅館を、有馬で最も古い歴史をもつ宿、陶泉御所坊〈とうせんごしょぼう〉の15代目金井四郎兵衛〈かないしろうべえ〉氏が引き継いで平成11年(1999)に開業。和室にベッドというレトロな客室で過ごせば、神戸開港期には外国人も多く訪れたという、在りし日の有馬温泉のエキゾチックな風情に浸れる。
お待ちかねの夕食は、ほの暗い空間に重厚なカウンターが印象的な食事処で。ここでいただけるのは、神戸ビーフの中でも特に希少な但馬玄〈たじまぐろ〉の炭火焼きが付いた山家〈やまが〉料理。もちろん、明石の魚介や旬の野菜も存分に味わえるが、ここでの主役は羽釡〈はがま〉で炊き上げるご飯だ。「何よりもおいしいご飯を召し上がっていただきたい」と料理長の松岡兼司〈まつおかけんじ〉さん。白い湯気が上がるお竈〈くど〉さんの向こうから、「ご飯が欲しいタイミングを教えてください」と優しく声をかけてくれる。そう、すべての料理は、ご飯をおいしく食べるためにある。有馬の名湯と炊きたてのご飯。日本のよさを満喫できるひとり旅だった。