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輝く海と島、キリシタン弾圧と祈りの歴史をたどる
遠藤周作『沈黙』
文=河村規子 写真=松尾順造
碧い海が迎える
トモギ村の舞台、外海キリスト教を題材にした小説といえば、遠藤周作の『沈黙』を思い浮かべる人は多いだろう。昭和41年(1966)に発行されると純文学としては異例のベストセラーとなり、世界31カ国語で翻訳され、2017年には巨匠マーティン・スコセッシ監督によって映画化され話題を呼んだ。
舞台は長崎県。カトリック信者である遠藤はたまたま訪れた長崎市内の洋館で踏絵と出会い、その踏絵にうっすらと残る黒い足指の痕にインスピレーションを覚え、『沈黙』を書くきっかけとなったという。その後も幾度となく長崎を訪れることで、遠藤にとって長崎は「心の故郷」になっていく。
長崎駅からレンタカーに乗って、長崎市郊外の外海〈そとめ〉に向かう。外海は、主人公のロドリゴが臆病者の信徒キチジローに案内されて、最初に潜入したトモギ村の舞台となったところだ。小説にあるように、厳しい禁教の世にありながら、外海の信徒たちは密かに組織を作り、250年以上も信仰を守り続けた。遠い昔から、この集落は祈りとともにある。1時間ほど走ると。赤いレンガ造りの黒崎教会が見えて来た。
小説の中で度々出てくる海の描写。そのひとつひとつの情景を思い出しながら、目の前に広がる碧い海を眺める。ロドリゴをかくまった信徒のイチゾウとモキチがこの海岸で殉教したシーンが蘇り、どことなく哀しみを秘めた海にも見えた。