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開業100周年を迎えた

叡山電鉄で行く洛北散歩

文=中島彰子 写真=山田大輔

京都の街なかと、比叡山の麓、鞍馬・貴船を結ぶローカル鉄道に乗って沿線散歩。
冬の洛北は静寂に包まれ、街なかの混雑とは別世界です。
学生街の雰囲気やアートも楽しめる、知的好奇心を満たす旅へ出かけましょう。

叡山電鉄の出町柳駅が
旅のスタート
2025年9月に開業100周年を迎えた叡山電鉄に乗って、沿線巡りを楽しもうと洛北を訪れた。洛北はシーズンの春夏秋は賑わうが、冬は静かな風情を楽しめる。叡山電鉄での移動も、市街地の道路渋滞から逃れることができて快適だ。

電車に乗り込む前に、朝9時の開館時間を狙って旧三井家下鴨別邸へ。主屋は明治13年(1880)建造の三井家木屋町別邸を、大正14年(1925)に移築したもので、国の重要文化財に指定されている。今回は1階の座敷で庭を眺めながら抹茶ケーキセットを味わった。比較的空いている平日は1階座敷で喫茶を楽しめる。

出町柳駅に戻り、叡山電鉄で一乗寺駅に向かう。沿線は大学が多く、学生街の一乗寺駅周辺は個性的な書店やカフェが点在するカルチャースポット。また、ラーメン激戦区としても知られ、半径約1㎞圏内に約30軒がひしめきあう。その中の一軒、麺屋聖は、だしの風味を大切にしたしょうゆラーメンを出す店だ。カウンター席に座り、看板メニューのギフトを頼む。だしの香りがふわりと立ち上るラーメンを味わい、幸せな気持ちになれた。

1日乗車券で沿線の
カルチャースポットを散策
麺屋聖から少し歩いてマヤルカ古書店へ。「マヤルカ」とはロシア語で「私の手」という意味。「てのひらでそっと包みたくなるような本や作り手の気持ちが感じられる手仕事を届けたい」と、小さな店内に所狭しと絵本や文学書、アートブック、手軽な文庫本などが並んでいる。民芸品なども陳列されていて、温もりのある空間でひと時を過ごせた。再び叡山電鉄に乗り、叡山本線の終着駅・八瀬比叡山口駅へ。大正14年(1925)9月に八瀬駅として開業し、100周年を迎えた駅舎はレトロな雰囲気だが華やぎもある。そこからバスで猫猫寺へと向かう。

到着すると、管長夫妻が笑顔で迎えてくれた。管長の加悦徹〈かやとおる〉さんは仏画や襖絵などの彩色師。副管長の加悦順子〈かやじゅんこ〉さんは羊毛フェルト作家。息子の加悦雅乃〈かやみやの〉さんは17歳のときパリのサロン・ドートンヌ展で入選した、世界に通用する猫作家。家族で八瀬の古民家を改装し、2016年、寺院風美術館として猫猫寺をオープン。さらに2025年には同じく八瀬に猫族歴史博物館をオープンさせた。どちらも、世界中から猫好きが集まり、話題となっているという。館内には、絵画や仏画、仏像など、猫をテーマにしたアート作品がずらり。どれも本格的で、眺めていると不思議な世界観にはまってしまう。思わず笑顔になる作品ばかりだった。

夜は出町柳駅に戻り、夕食を味わおうと浅井食堂へ。席に着き、人気のハンバーグとエビフライのセットを注文した。特製のデミグラスソースがかかったハンバーグは、細挽き肉を使い、なめらかで軟らかく、噛みしめると肉の味わいが口の中に広がる。それでいて脂っこくなく食べやすい。店主は日本ソムリエ協会所属のソムリエで、グラスワインは8種類以上揃う。気さくな店主とワイン談義で盛り上がり、楽しい夜を過ごすことができた。

(ノジュール2026年1月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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