「新時代医療(ネオメディカル)」のススメ 第2回
日々進歩する予防医学。
新元号となる2019年は、“未病”対策を見直してみませんか?
新時代の健康なカラダ作りのために知っておきたい、医療業界の最新トピックスを毎号お届けします。
私たちの体を構成するすべての細胞に存在し、エネルギーをつくりだすミトコンドリア。
実は、ほとんどの病気や老化はミトコンドリアの数や働きが低下して起こります。
今月はミトコンドリア研究の第一人者である太田成男先生にお話を伺いました。
ミトコンドリアの機能が低下すると病気になるミトコンドリアは細胞内でさまざまな化学反応を行う小さな器官です。
ミトコンドリアと病気や健康との関係について、35年以上、研究を続けてきた太田成男先生は、「極論を言えば、病気とは『ミトコンドリアが足りなくなった状態』のこと。ミトコンドリアが十分に働いていれば、病気になっても健康に戻ります」と断言します。
ミトコンドリアの役割は、細胞のアポトーシス(自然死または細胞自滅)のコントロール、活性酸素の放出、免疫や炎症のコントロールなど多岐にわたりますが、もっとも重要な役割はエネルギー代謝。
人間の行動にはすべてエネルギーが必要ですが、そのエネルギーの原料となるATP(アデノシン三リン酸)をつくり出しているのがミトコンドリアです。そのミトコンドリアが加齢や食生活、運動不足、ストレスなどが原因で減ったり、機能が低下したりすると、エネルギー不足に陥ります。基本的に、エネルギー不足に陥ったときは、臓器を働かせる、体温を維持するといった、生命維持のためにエネルギーが優先して使われ、細胞の修復は後回しになります。
ミトコンドリアはありとあらゆる臓器の細胞にいますが、ミトコンドリアの数が少なくなると、それぞれの細胞内でつくられるエネルギーが減り、病気の原因となります。例えば、心臓の細胞が傷つくと心臓病、脳の神経細胞が傷つくと認知症、血管が傷つくと動脈硬化のように、全身の病気に直結していくのです。
ちなみに、糖尿病の患者さんは、ミトコンドリアが健康な人の半分くらいまで減っているそうです。ミトコンドリアの数が少ないから、血液中に栄養があふれていても(血糖値が高くても)エネルギーとして利用できません。
糖尿病はエネルギーをうまくつくりだせなくなっている、エネルギー代謝の病気です。わかりやすく言えば、エンジン(ミトコンドリア)が壊れていて、ガソリン(ブドウ糖)が満タンなのに動かない車のようなものです。
運動とプチ断食が
ミトコンドリアの数を
増やし、活性化させる病気にならないためにどうすればいいのかは、とてもシンプル。ミトコンドリアの数を維持すればいいだけです。
ミトコンドリアは加齢などの要因で減っていきますが、私たちの努力で増やすこともできます。ミトコンドリアの数に大きく影響するのが、運動量です。
ちょっとハードな運動をしたときには息がハアハアとあがり、心臓がバクバクします。これはエネルギーが足りなくて、酸素や栄養が心臓に十分に送られていないからです。
ところが、同じ運動を続けていると2週間ほどで体が慣れてきます。これはミトコンドリアの数が増えて、それまでより多くのエネルギーがつくられるようになったから。同じエネルギーでより強い運動ができるようになり、息が上がらず、動悸もしなくなったのです。つまり、意識的に運動することにより、健康を保つことができるのです。
カナダの研究者によると、運動をよくする70歳の10人の平均の筋肉ミトコンドリアの活動力は22歳の平均とほぼ同じでした。しかし、ほとんど運動をしない63歳の10人の平均は運動をする70歳の平均の半分以下でした。運動する人ほど寿命が長いという研究報告はたくさんありますが、運動でミトコンドリアの数が増えるからといえます。
運動することでミトコンドリアが増えるのは、エネルギーを消費したとき、細胞がエネルギー不足を感じて、ミトコンドリアを増やすよう指令を出すからです。ミトコンドリアを増やすのは「やや強め」の運動。おすすめの運動は、3分間「ややきつい」と感じる早歩きをして、3分間ゆっくり歩く「インターバル速歩」。スピードの目安は運動中の脈拍数を参考にしましょう。50歳は125、60歳は120、70歳は115くらいが、やや強めの運動の目安になります。
もうひとつのミトコンドリアを増やす方法がカロリー制限です。カロリーを制限してエネルギーが不足すると、ミトコンドリアが増えます。1日1食減らすなどして摂取エネルギーを70%くらいまでに抑えたり、週末だけ1日1食にして30%程度まで抑えるプチ断食を行ったりすると、ミトコンドリアの数が増えます。
ミトコンドリアの数が増えるとエネルギーが十分につくられます。エネルギーは、元気に過ごすための活力であり、傷ついた細胞を治す薬。元気に過ごすための礎となります。ミトコンドリアを増やす生活を心がけましょう。
おおた しげお●日本医科大学名誉教授・順天堂大学大学院客員教授。1974年、東京大学理学部化学科卒業後、博士課程修了。
スイス連邦バーゼル大学バイオセンター研究所、自治医科大学助教授などを経て、1994年より日本医科大学教授。
日本分子状水素医学生物学会理事長。専門は分子細胞生物学、ミトコンドリア学。著書に『ここまでわかった 水素水最新Q&A』(小学館)など多数。