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平城京と飛鳥を結ぶ 万葉が薫る田舎道

山の辺の道

文=ウエスト・パブリッシング 写真:宮田清彦、奈良県ビジターズビューロー

山裾に続く畦道を抜ける長閑な古道。
『万葉集』にも数多く詠まれ、今も古さびた小社や石仏が道端に点在する道を、アメリカ出身のワンダさんが歩きました。

石上神宮から歩き始める
竹林の美しさに感動
「青垣」の例えにあるとおり、小高い山に囲まれた奈良盆地。その東に連なる山裾を南北に走るのが山の辺の道。最も歩きやすく人気のあるのは石上〈いそのかみ〉神宮から大神〈おおみわ〉神社にかけての約12㎞の区間で北から南へ歩くと上りが少なくて歩きやすい。

JR・近鉄天理駅から石上神宮前まではバス便が少ないので、タクシー利用が便利。石上神宮は古代の豪族物部〈もののべ〉氏が累代奉仕してきた社で、境内に入ると神さびた雰囲気に包まれる。神武天皇東征の際、大きな力を与えたという神剣・布都御魂大神〈ふつのみたまのおおかみ〉を主祭神として祀る。ご利益は除災招福に起死回生。神武天皇の全軍が熊野の山中で毒にあたり壊滅寸前となったとき、布都御魂の霊力で蘇生した故事による。境内には、神にわとり鶏が走り回り、この鶏の鳴き声は魔除けとなり、聴くとご利益があるという。

緑豊かな境内を抜けて、内山永久寺跡〈うちやまえいきゅうじあと〉へ向かうが、本堂池が残るのみ。池畔には松尾芭蕉が詠んだ「うち山やとざましらずの花ざかり」という句碑が立つ。明治の廃仏毀釈で破壊されるまでは、西の日光といわれるほどの美しい大寺院だったという。

トイレ休憩もできる天理観光農園を過ぎると竹藪が出てくる。「竹そのものは園芸のようなレベルでは知っているけど、竹林は欧米では見慣れない景色。目を遣らずにはいられませんね」と、アメリカ出身で、今は日本に暮らすワンダさん。道端には、朝採り野菜や旬の果物が並び無人販売されている。地産の新鮮野菜や果物に心惹かれるものの、「やっぱり持ち歩くには重いだろうな……」と思案しつつ、結局は諦めて歩き出す。田んぼの間を縫うように行くと、その先に木立が見えてきて夜都岐〈やとぎ〉神社に着く。「日本最古の神社とありますが、大和には本当に日本最古がたくさんありますね」

周りの小山はほとんど
古墳コースの中間、
長岳寺に着く
再び畦道を行くと竹之内環濠〈たけのうちかんごう〉集落に入る。環濠集落とは、外敵から身を護るために濠をめぐらした集落のことで、奈良盆地の中で最も高い場所に造られた。次に通る萱生〈かよう〉も環濠集落である。集落の山側には、継体天皇の皇后・手白香皇女〈たしらかのひめみこ〉の大きな前方後円墳、衾田陵〈ふすまだりょう〉が見える。このあたりには丸い小山がいくつも見えるが、そのほとんどが古墳というから驚く。

山手にさしかかると、果樹畑の彼方には二上山〈にじょうさん〉が望める。道沿いには柿本人麻呂の歌碑「あしひきの山川の瀬の響るなへに弓月が嶽〈ゆつきがたけ〉に雲立ち渡る」が立つ。歌に詠まれた弓月が嶽とは、巻向山〈まきむくやま〉の峰のひとつである。古墳と古社を通り抜けて長岳寺の参道に入る。

天長元年(824)に空海が創建し、花の寺として知られるが秋の紅葉も美しい。日本最古といわれる鐘楼門を通り抜け、玉眼をもつ阿弥陀三尊像を安置する本堂が池前にある。毎年秋(10月23日〜11月30日)には、大地獄絵(狩野山楽筆)が本堂で開帳される。住職の「閻魔の嘆き」説法はコミカルな絵解きで必聴だ。境内の続きにはトイレ休憩や水分補給のできる天理市トレイルセンターがある。併設されたレストラン洋食Katsui山の辺の道でランチとする。