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名高き栗の里で北斎アートと栗三昧

北斎と栗 小布施【長野県】

文=山田裕子(editorial team Flone) 写真=日高奈々子

長野県で一番小さな町・小布施。
半径約2㎞の中に魅力が詰まっています。
栗菓子と葛飾北斎ゆかりの地を巡るのはもちろん、魅力的な小径を散策するのもおすすめ。
スマホを活用して、お気に入りの小径を探してみましょう。

美食とアートを巡る
1泊2日のひとり旅
長野電鉄長野駅から電車に揺られて小布施〈おぶせ〉駅へ。ホームに降り立つと、どこか懐かしい気持ちになったのは、栗の花の香りが出迎えてくれたからだろうか。小布施町は全国的にも知られる栗の里。町の南を流れる松川が造り出した酸性土壌の扇状地には、かつて見渡す限りの栗林が広がっていた。小布施の栗栽培は600年以上の歴史があるといわれ、江戸時代には将軍への献上品となるほどの名産品だったとか。ツヤがあり、はちきれんばかりに大ぶりの小布施栗は、栗好き垂涎の味わい。街には栗菓子の名店が軒を連ね、各店の味を長年競い合ってきた。今回の旅では、それらをじっくり食べ比べて自分のお気に入りの一品を見つけたい。

小布施の旅で外せないもうひとつのテーマは、北斎アート。小布施出身の豪商であり、文人画家でもある髙井鴻山に招かれ、浮世絵師・葛飾北斎は83歳で小布施を訪れた。通算4度も江戸から足を運び、伸び伸びと筆を走らせた傑作がここ、小布施には数多く残っている。老いも忘れて絵に没頭できたのは、小布施だったからなのか?晩年の北斎の足跡をたどるべく、まずは岩松院へ向かった。と同時に、この『鳳凰図』があの岩松院の天井絵以前に描かれ、着想を与えたかと思うと感動もひとしお。

感動の余熱が冷めぬまま向かったのは桜井甘精堂 栗の木テラス 小布施店。こちらは、栗を自然のままに味わってほしいと栗菓子を作り続ける桜井甘精堂の姉妹店。先代が紅茶にのめり込み、紅茶と栗の洋菓子を提供する店をオープンさせた。桜井甘精堂と同じ栗あんをベースに作られるモンブランや焼き菓子は、桜井甘精堂のDNAをしっかりと受け継いでいる。


蔵で堪能する日本酒と
静かな夜のひととき
ディナーをいただくために小布施 寄り付き料理 蔵部へ向かう。「寄り付き」とは、酒蔵で働く蔵人たちが寝泊まりをしながら酒を造り、休息し、食事をする場所のこと。築約270年のその場所をモダンに改装した空間は、建物の随所に歴史が感じられる。「おひとりさまにもおすすめです」と店長が供してくれたのが、信州の清流で育った信州大王イワナと信州サーモンのお造りをのせたひと皿。棟続きの造り酒屋・桝一市村酒造場の代表銘柄が並ぶ唎き酒セットとともにちびり、ちびりと楽しむ。信州大王イワナのなめろうを半分味わったところで、同じくイワナの骨からとっただしとともに羽釡で炊いた、イワナときのこの炊き込みご飯と味噌汁のセットが運ばれてきた。定食のおかずとご飯を時間差で提供してくれるとは、こまやかな気遣いを感じる。

ほろ酔い気分になったところで今宵の宿、桝一客殿へ。12室ある客室はすべてシングルユースが可能。ひとり読書を楽しんだり、旅日記もしたためたりしたくて、デスクのある書斎タイプの部屋をチョイス。移築された蔵をそのまま客室にしていて、静けさは格別。極上の静かな夜を楽しんだ。翌朝は宿から徒歩2分の傘風楼で、宿泊客専用の朝食メニューをいただく。小布施の平飼い鶏の卵料理が自慢で、そのほかオブセ牛乳や季節のフルーツジャム、自家製パンなど地産地消の新鮮な食材を堪能。食後のデザートに、販売コーナーで人気の栗アイスクリームも味わい、口福な朝を迎えた。

続いて向かったのが、髙井鴻山記念館。小布施の豪商・髙井鴻山が北斎をはじめ、多くの文人墨客を江戸から招いた書斎兼サロン・翛然楼〈ゆうぜんろう〉や穀蔵を展示室としたミュージアムだ。文人画家でもあった鴻山直筆の絵や書を鑑賞するのはもちろん、北斎が半年滞在した京風建築に武家屋敷の要素も秘めた翛然楼をひとりじっくり見学するのも楽しい。

(ノジュール2024年8月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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