人気の特集

世田谷の歴史を刻み閑静な住宅街を走る

東急世田谷線 × 世田谷城
【東京都】

文=高田京子 写真=中田浩資

室町時代から戦国時代にかけて吉良〈きら〉氏の居城だったとされる世田谷城。
区の花・サギソウにまつわる常盤姫〈ときわひめ〉の伝説など、世田谷の今昔を、のんびりと走る路面電車・世田谷線で訪ねます。

身近に感じられる
世田谷の歴史と風景
宮の坂駅で下車すると、まず目に入るのはホームに隣接して展示されている玉電時代の懐かしい車両だ。駅から城山通りを南東へ進んで世田谷城阯公園へ。起伏に富んだ空間は城の南東部の郭があった辺りといわれ、かつての面影を伝える土塁や空堀が残る。

室町時代、城主だった吉良氏の中でも、戦国時代の武将・吉良頼康には、地元でよく知られる伝説がある。頼康が寵愛した側室・常盤が身ごもった際、ほかの側室たちの中傷を信じた頼康は彼女を城から追い出してしまう。その後、頼康が射落としたサギの足に結ばれた常盤の遺書を見て、頼康は潔白を知る。しかし常盤はすでに命を絶っていた。常盤を葬った塚が常盤塚とされ、サギが落ちた場所にサギに似た白い花をつける草が生え、これがサギソウとして区の花になっている。

あくまで伝説でしかないが、静かな城趾に立つとどこか切ない思いが湧いてくる。

散策後は早めのランチを南仏家庭料理の店・Sept et huit で。ランチセットは、シェフが直接農家から仕入れる世田谷野菜たっぷりサラダのほか、低温でじっくり仕上げる鶏もも肉のコンフィ、自家製パンなどボリュームたっぷり。予約必須の人気店だ。

隣の上町駅で下車したら世田谷代官屋敷へ。現存する旧大場家住宅主屋は元文2年(1737)に建てられたと考えられている。宝暦3年(1753)に大規模な改修がされ、2階部分は幕末に増築されたという。家格の高さがうかがわれる主屋と表門は国の重要文化財だ。

松陰神社前駅から世田谷通りを渡り、数分歩いた住宅街の中に常盤塚がある。広くはないが緑に囲まれ、落ち着いた雰囲気の場所だ。

駅前の松陰PLAT は、築50年以上の木造アパートをリノベーションした施設だ。2階にあるカフェ・タビラコから世田谷線を眺めながらひと休み。最後は三軒茶屋〈さんげんぢゃや〉駅を目指すが、途中の若林駅と西太子堂駅の間にある若林踏切は、電車も信号待ちをする名物踏切だ。

のんびり走る世田谷線の旅は、街にとけ込んだ車窓を眺めて締めくくりにしよう。

(ノジュール2024年8月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

ご注文はこちら