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上質な里山の風景と
露天風呂巡りで癒やされる
黒川温泉【熊本県】
地域が手を携えて取り組んだ情緒豊かな景観づくりと、入湯手形を使った露天風呂巡りが評判となり1990年代には全国区の人気温泉となった黒川温泉。
次世代が中心となって新たな取り組みも始まっています。
「黒川温泉一旅館」とし
温泉郷全体で客をもてなす標高1700m級の山々が連なるくじゅう連山と、パノラミックな大自然に魅了される阿蘇五岳。その山あいの標高約700mの約4㎞圏内に、30軒の旅館が点在する小さな温泉地が黒川温泉だ。江戸時代中期に、参勤交代の一行や奉行の役人等を癒やしたとされる泉質のよさに加え、黒川温泉全体で一つの宿=「黒川温泉一〈いち〉旅館」の精神で訪れる人を手厚くもてなし、全国屈指の人気温泉郷となっている。昭和61年(1986)より販売されている入湯手形ももてなしの一つとして考案されたもので、入湯手形で露天風呂が巡れると話題になり、黒川温泉の名を全国区へと押し上げた。その入湯手形が2022年に36年ぶりにリニューアル。湯巡りに加えて、温泉街にある17の店舗でお団子やソフトクリーム、ビールなどと引き換えられるようになった。黒川温泉に着いたら、観光案内所も兼ねる風の舎に立ち寄り、まずは入湯手形を入手したい。
風の舎すぐ近くのべっちん館では色浴衣のレンタルができる。男女ともにSからLLまで選べ、脱ぎ着しやすい浴衣は湯巡りにおすすめだ。実際に着てみると気持ちが華やぎ、温泉街歩きもいっそう楽しいものになった。
あか牛料理 わろく屋は、歴史の宿御客屋が営む料理店。近年、阿蘇産ブランド肉・あか牛を使った料理の専門店となり、メニューは宿の総料理長が監修。赤身が多くヘルシーなあか牛の、軟らかくとろける味わいを満喫できる。昨年9月には店の2階に、ご縁朝ごはん(要予約)やランチなどを提供する姉妹店・予祝〈よしゅく〉もオープンしている。
享保7年(1722)に熊本藩の御用宿として創業した歴史の宿 御客屋では、細川のお殿様も愛でたという温泉に入浴できる。湯上がりに、入湯手形で引き換えられる生ビールを昼間から楽しんだら、旅先の非日常感が一気に高まった。また、ひとり宿泊もOKなこの宿は、自家農園でとれた米や野菜を使った料理に定評がある。半農半宿の旅館の味を泊まって堪能したい。
憧れ宿の露天風呂も
入湯手形で愉しめる泊まるのは少々気後れしてしまう高級宿も、湯巡りで気軽に立ち寄れるのが黒川温泉のうれしいところ。温泉街から少し離れた奥黒川にたたずむ里の湯 和らくは、茅葺き屋根の重厚な山門が迎える大人のための宿で、宿泊は13歳以上だが、湯巡りなら年齢問わず利用できる。野趣あふれる野天風呂と神秘的な穴湯があり、時間帯により男女入れ替え。硫黄を含む弱酸性の湯は肌あたりが柔らかく、体の芯から温まる。露天風呂に至る小径は緑豊かで手入れが行き届き、いつか泊まってみたいという憧れが加速する。時期によりひとり宿泊も可能だそうだ。
昔からこの地の祝事仏事で食されていた御膳をもとに考案したという、とうふ吉祥のとうふ定食は温泉街の名物グルメ。自家製豆腐やこんにゃくを使った料理は、湯上がりの体にすっとなじむ素朴な味わい。併設の団子店ではオリジナルの豆乳ソフトや団子が購入でき、入湯手形で引き換えられるセットも登場。おやつどきには、引き換えを求める客が列をなしていた。
座ってゆっくり甘いものを味わうなら白玉っ子甘味茶屋へ。阿蘇産のもち米を使用した自家製の白玉は、注文を受けてからゆでるため、運ばれてくる際にもまだ温かく、ほんわか幸せな気分になる。湯上がり白玉のトッピングは、小倉、きなこ、黒蜜、みたらしなど全6種から2種を選ぶことができる。
創業100年超の後藤酒店は、よろず店から歴史が始まっただけあり、品揃えが豊富。黒川湧水仕込みの地ビールや地酒はもちろん、気の利いたおつまみ、黒川みやげのほか、コンビニのような一角も。ロングセラーのオリジナルワインはさらにおいしくリニューアル中で、晩秋には新ワインがお目見え予定だ。
いつ行ってもほっとする変わらぬ風情の中に、それぞれ変化や進化を内包する黒川温泉。冬の風物詩・湯あかりも12月からスタート。冬こそありがたみを発揮する温泉に浸かるため、この冬にもう一度、訪れたい。