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これぞ昭和の下町!人情味あふれる

葛飾柴又〈かつしかしばまた〉
〝寅さんの町〟へ

文=武田ちよこ 写真=原田圭介

昭和を代表する映画といえば『男はつらいよ』。
主人公・車寅次郎のふるさと・葛飾柴又を歩けば、そこここに寅さんの生きた昭和が見つかります。

「街並みを大切に」と
山田監督は言った
柴又駅の改札を抜けると、寅さん、さくらの像に迎えられた。帝釋天参道は映画『男はつらいよ』で何度も見ているからか、初めて来た気がしない。団子屋さんやせんべい屋さん。通りの店構えは昭和の時代から変わらない。

この参道で『男はつらいよ』の撮影が行われるとき、山田洋次監督や役者さんたちの休憩に使われたのが、草だんごの店・髙木屋老舗だ。「昭和40年代までは、江戸川の河川敷に生えているヨモギを使っていたんですよ」と話す代表の石川雅子さん。「1996年に渥美清さんが亡くなり、新作が出なくなると、ここを訪れる人もめっきり減りました。そんなときに山田監督が『柴又はこの街並みを大切にしていけばいいんです』とおっしゃった。長く映画の撮影があったおかげで、参道に面した店は新築や改築を控え、景観がそのまま残りました。今ここにやってくる若い方には、寅さんを知らない方もいます。でもそういう方々も、皆さん懐かしいと言ってくださいます。映画のおかげで保たれたこの景観が、柴又の財産なんです」

参道の突き当たりは、寅さんが産湯を使った柴又帝釈天だ。正式名は経栄山題経寺〈きょうえいざんだいきょうじ〉。映画では夕暮れどき、寺男の源ちゃんが鐘を突くシーンが印象的だが、帝釈堂内陣に施された木彫「法華経説話彫刻」や、日本庭園の邃渓園〈すいけいえん〉といったみどころも多い。

広い境内にたたずんでいると、御前様が歩いてこられるような気がする。観光客に交じって、地元の人も通りがかりに門前に頭を下げる。昔ながらの光景が今も目の前に広がっていた。

「寅さん」にどっぷり
昭和もたっぷり
寅さんファンにはたまらない施設が、葛飾柴又 寅さん記念館。『男はつらいよ』に関する実物資料やジオラマ模型、懐かしい映像など、みどころは多々あるが、実際に第1作から48作まで26年間撮影に使われていた、寅さんの実家「くるまや」のセットは感動もの。店先や茶の間、2階へ上がる階段で繰り広げられたドラマの数々。このセットから生まれた涙あり、笑いあり、ドタバタありの名シーンがいくつも思い浮かぶ。タコ社長率いる朝日印刷所のセットもある。昭和の時代のインクの染みまで残っていた。

館長の諏訪宏さんは「自由人だが義理人情に厚い寅さんが生きた昭和の魅力に浸りたいと、来られる方が大勢います。アナログで、ゆったりした時間が流れ、人と人のふれあいとか、ぬくもりがある世界です。最近では、この広場でディスコ大会など昭和のコンテンツにふれるイベントを企画すると、大盛況なんですよ」と教えてくれた。

諏訪さんにぜひ立ち寄ったほうがいいとすすめられた葛飾区 山本亭は、葛飾柴又 寅さん記念館の隣。カメラ部品の製造業で財を成した山本榮之助の邸宅で、大正末期から昭和初期に造られた近代和風建築だ。昭和後期まで実際に家族が住んでいた建物を葛飾区が引き継いで公開している。美しい庭を眺めながら、疲れた足をしばし休めた。

寅さんの町・葛飾柴又には、昭和がよく似合う。葛飾区 山本亭を見学した後は柴又駅方面へと戻り、柴又ハイカラ横丁ののれんをくぐった。ここは昭和グッズの専門店だ。所狭しと並ぶ商品は、駄菓子だけでも500種類以上、文具やおもちゃ、雑貨など、すべて合わせると3000種類以上もあるという。

レトロな空間が好きでこの店を始めたという店主の韓永作さんは、柴又のお隣、葛飾区高砂の生まれ。「昭和はエネルギーがあって、元気でしたよね。昭和グッズは、大人には懐かしく、若い人にもそのビジュアルが魅力的なんです。最近は外国から、下調べをして目当ての品を買いにくる方も多いですよ」

最後に訪れたのは、昭和レトロ喫茶セピア。店の中は、少女漫画雑誌『りぼん』の世界だ。

昭和歌謡が流れる店内でオムライスを味わっていると、10代と思しき女子が次々とやってくる。「うちは店内の撮影OKなので、映える写真も撮り放題です。こういうお店なので、年配のお客さんと若い方がすぐ仲よくなって、『これ知ってる?』『これ好きだったの』と話が弾んで、店にはいつも親密な空気が流れています。これも昭和の力かもしれませんね」と店主の石井裕美さん。

テーブルに置かれたチープな造花が、ここではやけにすてきに見える。昭和はひとつの文化として、私たちの心に生きている。寅さんの町で、そう実感した。

(ノジュール2024年11月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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