老後に備えるあんしんマネー学 第51回

さまざまな情報が飛び交うなか、老後資金に不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。
お金を上手に管理して、老後を安心かつ心豊かに暮らすための、備えのマネー術を紹介します。

退職と年金生活に向けての
生活設計で気を付けること

文=畠中雅子 イラスト=平田利之

近年は60歳などで定年を迎えても、そのままリタイアするケースは少数派。継続雇用で働いたり、再就職したりするのがポピュラーな生き方になっています。定年を迎えても、すぐには年金が支給されなくなっているので、働き続けるのは当然といえますが、定年を迎えてから年金の受給が始まるまでの期間は、安定した老後生活を送るためにも重要な準備期間になります。そこで今月号では、定年前後の生活設計について知っておきたいことをご紹介します。

退職金を受け取っても
しばらくは口座で
眠らせておく
退職時期が迫ってくると、会社からリタイアセミナーのお知らせを受け取ることも多いでしょう。会社を通して行われるセミナーが、中立的な内容であればよいのですが、金融機関から講師が派遣される場合は、多くのケースで退職金の運用をすすめられます。「退職金を預金口座に眠らせておくのはもったいない」という理屈です。

退職金を含めた手元資金を運用することもあると思いますが、始めるタイミングは退職金を受け取ったときではありません。退職金の受け取りは、その後の収入が下がることを意味します。減った収入に合わせた生活設計を、先に見直す必要があるのです。住宅ローンが残っている場合は、退職金で住宅ローンを完済するかについて、教育費の負担が終わっていない場合は、いつまで親が負担すべきか等について、運用する前に検討する必要があります。

そのため、退職金を受け取っても1年くらいは、銀行の口座に眠らせておくのが安心です。銀行預金ではお金は増やせませんが、少なくとも減るリスクは避けられます。住宅ローンや教育費などの1年間の支出の目途がついたら、余裕資金と思われる金額を運用に回すのがおすすめです。

60歳以降は65歳になるまで
2カ月ごとに給付金がもらえる
定年後は働き続けても収入が減るのが一般的ですが、雇用保険に加入する形で働いていれば「高年齢雇用継続基本給付金」という給付金が支給されます。60歳以降も働くが、前職より賃金が75%未満に下がった場合に支給される給付金です。2024年度までに退職した場合は、60歳時点の賃金の15%を受け取っているケースが多いですが、2025年度からの退職では60歳時点の賃金の10%が支給の上限額になります。ちなみに給付金は、2カ月ごとに指定した口座に振り込まれます。定年を迎えてから年金を受け取るまでの生活設計は、給与と給付金を合わせた金額をベースに考えましょう。

年金の手取り額内に
基本生活費を収める努力を
ここからは、年金生活に向けての生活設計を考えます。遅くとも50代半ばを過ぎたら、ねんきん定期便を参考にして、食費や日用品費、電気代、ガス代、水道代、電話代といった基本生活費を、年金でどのくらいまかなえそうかについて検討する必要があります。

そのためには、ねんきん定期便に記載された年額を12で割って、ひと月分の年金額を計算しましょう。ねんきん定期便を参考にする際は、税金や社会保険料を考慮して、1〜2割くらい額面から引いて考えておくと、安心です。

年金額と生活費を照らし合わせると、「基本的な生活費を年金だけでまかなうのは絶対に無理」と感じる方が多いかもしれませんが、私が年金生活者の家計診断をしていて感じるのは、年金生活に入って1年くらい経つと、年金での赤字はひと月1〜3万円程度に収まる家庭が多いということです。年金生活に入ると比較的家でご飯を食べる機会が増えるため、食費を抑えやすくなり、日用品なども安い店で計画的に購入できるようになります。ただし、ひと月の赤字が3万円を超えそうな場合や老後資金に余裕がない場合などは、生活費のダウンサイジングが必要になります。

はたなか まさこ
ファイナンシャルプランナー。
新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演を行う。
「高齢期のお金を考える会」「働けない子どものお金を考える会」などを主宰。
最新刊『70歳からの人生を豊かにするお金の新常識』(高橋書店)など著書多数。

(ノジュール2025年1月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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