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閑静な城下町の風景と圧巻の建築美を訪ねて

たつのと姫路の文化財を愛でる旅

文=安岡遥(エディットプラス) 写真=マツダナオキ

江戸時代の城下町の面影を色濃く残すたつの市。
姫路城や書寫山圓教寺など、日本を代表する文化財を有する姫路市。
万博会場からひと足延ばして、美を体感する小旅行へ出かけてみませんか。

多彩な名産品で知られる
情緒あふれる城下町を散策
兵庫県西南部に位置するたつの市は、龍野藩5万3000石の城下町だった。武家屋敷や白壁の土蔵が残る閑静な街並みは「播磨の小京都」と称され、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)にも指定されている。

万博会場から地下鉄と電車で約2時間。重伝建地区内に立つkurasu Villa 148へ宿泊する。明治時代の町家をリノベーションした建物に、一棟貸切りで泊まれるのがうれしい。食事は市内の飲食店を利用するもよし、地元食材を購入してキッチンで調理するもよし。美しい中庭を眺め、ゆったりと旅の疲れを癒やしたい。

翌日は、宿から徒歩7分のうすくち龍野醤油資料館からスタート。ここはたつので生まれた淡口〈うすくち〉しょうゆ造りの歴史を紹介している施設で、江戸時代から明治・大正ごろまでの醸造用具など約2400点が展示されている。巨大な仕込み樽や圧搾機など、使い込まれた道具類からしょうゆ造りの奥深さがうかがい知れる。鉄分の少ない揖保川〈いぼがわ〉の伏流水で造られる淡口しょうゆは、食材の持ち味を引き立てる淡麗な味わいが特徴で、大阪や京都の一流の料理人にも好まれている。館長の長井孝雄さんによると、最盛期には約80社がたつのに工場を構えていたという。

かつてのしょうゆ工場を活用した施設の一つに、クラテラスたつのがある。大正時代に建てられた龍野醤油同業組合の醸造工場を改装し、地場産品のアンテナショップ兼地産地消カフェとしてオープン。淡口しょうゆや手延そうめん・揖保乃糸など、たつのみやげをまとめて買うならぜひ訪れたい。

龍野藩主脇坂家の上屋敷跡一帯にある聚遠亭へも足を延ばそう。回遊式や座観式の優雅な庭園の中に、安政年間(1854〜1860)以降に移築されたと伝えられる茶室「浮堂〈うきどう〉」、脇坂家の屋敷跡に立つ「御涼所〈おすずみしょ〉」などの歴史的建造物が並ぶ。高台にあることから眺望も見事で、天気がよければ淡路島や瀬戸内海の島々が見晴らせる。

趣向に満ちた現代の名園と
白鷺城の威風に心打たれる
たつので味わいたいグルメといえば、何といっても揖保乃糸。文化年間(1804〜1818)に龍野藩の保護育成を受けて産地化したといわれ、現在も手延そうめんの代表的銘柄として親しまれている。

桝本剛志〈ますもとこうし〉さん・伸子〈のぶこ〉さん夫妻が営むそうめん処霞亭は、世界的レストランガイドにも掲載された人気店。淡口しょうゆや鯛のあらなどで仕立てた滋味深いだしでいただくにゅうめんが名物だ。使用するのは、作りたての揖保乃糸を1年間熟成させた「古ひね」のみ。伸子さんが長年の経験で会得したゆで加減も絶妙で、ツルリとした喉越しとほどよいコシが食欲を掻き立てる。

にゅうめんでお腹が満たされたら、JR本竜野駅から姫新線に乗って姫路を目指す。街のどこからでも目に入る姫路城にはやる心を鎮め、まずは城に隣接する姫路城西御屋敷跡庭園好古園へ。姫路藩主・本多忠政が造営した西御屋敷や武家屋敷などの屋敷割を生かし、1992年に開園した現代庭園だ。かつての屋敷割に沿って築地塀で区切られた大小9つの池泉回遊式庭園は、いずれも姫路城が借景。瀬戸内海をイメージした大池が広がる御屋敷の庭、15種類の竹の植栽に四阿〈あずまや〉を配した竹の庭など、門をくぐるたびに変わる眺めが目を楽しませてくれる。

続いてはいよいよ、旅の目玉の一つである国宝・姫路城へ。真っ白な白鷺が天に羽ばたくような優美な姿から「白鷺城」ともよばれる姫路城は、元弘3年(1333)に赤松氏が築いた砦が起源。羽柴秀吉、池田輝政、本多忠政らが西国統治の拠点として拡張し、元和4年(1618)に現在見られるような姿が整ったといわれる。

地上から91・9mの高さを誇る大天守は、5重6階地下1階の構造。内部は軍事施設らしい機能的な造りで、美しいたたずまいとのギャップに驚かされる。伏兵を潜ませる武者隠し、石垣に取り付いた敵兵を攻撃するための石落としなど、さまざまな仕掛けに気づくと見学がさらにおもしろくなるはずだ。

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