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陶芸家を惹き付ける

益子の自由な空気

文=牧岡幸代(編集室りっか) 写真=柏原真己

東日本に住む人に「焼き物の町といえばどこ?」と尋ねたら、真っ先に益子を思い浮かべるのではないでしょうか。ざっと400人の陶芸家が暮らす町・益子。みどころもいっぱいです。

極上の街歩きが
楽しめる焼き物の町
益子歩きの起点は真岡鐵道〈もおかてつどう〉益子駅。15分ほど歩くと城内坂〈じょうないざか〉交差点に着く。駅からここまでの道沿いにも陶器の店がちらほらあるが、城内坂交差点から先は、道の両側に大きな陶器店が軒を連ね、各店が歩道に向かって商品を並べていて、一気に気分が盛り上がる。どこも同じ陶器の店のようだが、よく見ると窯元が経営する店や、さまざまな作家の作品を集めているギャラリー風の店がある。品揃えや商品の見せ方にも個性があって見飽きることがない。カフェを併設している店も多く、ひと休みする場所にもこと欠かない。

濱田庄司記念益子参考館や濱田窯長屋門、益子陶芸美術館といった必ず訪れたいみどころも、陶器店が並ぶエリアからぎりぎり徒歩圏内。歩いても十分楽しめる範囲にみどころがぎゅぎゅっと詰まっている。益子駅でレンタルできる自転車を利用するのもおすすめだ。

城内坂交差点からすぐの所にある、もえぎ城内坂店は、さまざまな作家の作品を扱うギャラリー型の店。どちらかというと小ぢんまりとした外観からは想像できないほど、店内は広々。大小さまざまな展示室がある。

店長の大塚好重さんによると、益子で活動している陶芸家は現在およそ400人。益子以外の土地からやって来て、益子で新たに焼き物を始める人も多いそうだ。「栃木県の窯業技術支援センターが益子にあり、そこで一から技術を学ぶことができます。この存在は大きいですね。濱田庄司*さんの影響もあって、益子は外から来る人に開かれたところがあるんです。昔ながらの益子焼を作る人だけでなく、アート的な作品を制作する人などさまざまな作家がいます。自由に多種多様な創作に取り組む人がいる益子の今を、うちの店では紹介したいと考えています」

そう言う大塚さんの言葉どおり、店内には陶器に限らずオブジェや染織りなど、益子で活動するクリエイターの作品が並ぶ。益子の開かれた自由な空気は、多くの作家を引き付けているようだ。

登り窯を築き轆轤〈けろくろ〉にこだわる
牛窯〈うしがま〉
佐藤敬〈さとうたかし〉さん
仕事場を訪ねた日は、窯出しの日だった。ふだんはガス窯を使用し、年に数回登り窯に火を入れて、大きな物や、個展に出す物を焼くという。日頃一番多く作っているのは黄粉引〈きこひき〉の器。粉引は、素焼きした器に化粧土をかけて素焼きした後、釉薬をかけ、本焼きをして仕上げるもので、やさしい温かみがある。大きな物から豆皿のような小さな物まで、6人のスタッフと一緒に、月に大体1000個は作るそう。

佐藤敬さんが益子にやって来たのは25歳のとき。それまでも唐津や茨城で焼き物に携わっていたが、蹴轆轤を学びたくて、益子の陶芸家・成井恒雄さんに弟子入りした。「自分が蹴った力がダイレクトに粘土に伝わるのが蹴轆轤の魅力。電動轆轤で作るのとは、粘土を伸ばすときの手の使い方も違います」

登り窯と蹴轆轤を次世代に伝えたいという思いがある。

(ノジュール2025年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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