老後に備えるあんしんマネー学 第54回

さまざまな情報が飛び交うなか、老後資金に不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。
お金を上手に管理して、老後を安心かつ心豊かに暮らすための、備えのマネー術を紹介します。

リタイア後の生活設計は
50代から具体的に考えましょう

文=畠中雅子 イラスト=平田利之

年金生活をイメージすると、「とにかく節約しなければ」とか「欲しいものが買えなくなる」などと気分が暗くなる方も多いでしょう。年金生活に節約が求められるのは事実ですが、具体的にはどのくらいの節約が必要になるのでしょうか。そこで今回は、50代から考えておきたいリタイア後の生活設計をご紹介します。

リタイアメントセミナーで
運用をすすめられても焦らない
定年退職が近くなると多くの会社ではリタイアメントセミナーへの参加を求められます。会社に講師を招いたり、外部で開催されるセミナーへの参加を求められたりするなど、受講方法はさまざまですが、セミナーを受講すると、「年金を補うために、退職金は投資に回して老後資金を効率的に増やしましょう」といった説明を受ける機会も多くなります。退職金を投資すれば、預貯金をするより、増やせる可能性が高いという説明です。

その後、実際に退職金を受け取ると、退職金が入金された金融機関からも投資をすすめられます。金融機関側の勧誘を受けているうちに、気づいたら退職金の多くを投資していたという方も少なくありません。ですが、退職金を投資に回す前に、リタイア後の生活設計を立てることが大切です。

59歳の誕生月に届く
ねんきん定期便は永久保存
投資について考える前に生活設計を立てるべき理由は、年金生活での赤字の累積は数千万円にのぼるご家庭が多いこと。退職金を受け取らずとも、潤沢な老後資金が築けたご家庭であれば、退職金の多くを投資しても大丈夫です。一方、退職金が老後資金の多くを占める場合、投資する前に年金生活での収支を検討してみる必要があります。

収支を検討するために必要な資料は、ねんきん定期便です。ねんきん定期便を見て、65歳から受け取れる年金額を確認してください。特に、59歳の誕生月に届くねんきん定期便はA4サイズの封書タイプで、年金の加入記録が詳細に書かれています。年金の加入状況に間違いがないかを確認したうえで、保存しておくことが望まれます。

年金額を確認するときに知っておきたいのは、ねんきん定期便に書かれている年金額は、額面(総支給額)であって、手取り額ではないこと。額面からは、税金や社会保険料(国民健康保険料や公的介護保険料)が差し引かれるため、額面よりも1~3割程度、少ない金額が手取りになります。

年金の手取りが16~18万円なら
小遣いは夫婦で月3万円程度
ねんきん定期便の額面から、1~3割程度引いた金額を「収入」と考え、その範囲内で基本生活費がどのくらいまかなえそうかを考えてみます。例えば、夫婦の年金の手取り額が月16万円のご家庭の場合、食費は3万5000円程度、電気、ガス、水道代は合わせて2万円程度、夫婦の小遣いは2人分で3万円程度が適正額になります。夫婦の年金の手取りが月18万円に増えても、食費を4万円に増やせる程度です。

こうした金額でのやりくりはキツイと感じる方が多いとしても、それが年金生活の現実です。年金内に収まらない金額は、赤字として累積され、老後資金をジワジワと減らします。

また、ボーナスがなくなる年金生活では、固定資産税や自動車税などの各種税金、旅行費用、冠婚葬祭費用、家電の買い替え費用、家の修繕費用などの特別支出も貯蓄から捻出しなければなりません。月の赤字の12カ月分に特別支出の1年分を足した金額が、老後資金から毎年減っていくお金になります。この毎年減るお金が、年金生活を通して累積すると、数千万円にのぼってしまうのが一般的です。

赤字の累積分は、リスクを避けたい、投資に向かないお金になります。言い換えれば、老後資金から赤字の累積額を除いた金額は、投資しても大丈夫な「余裕資金」になります。余裕資金を把握していれば、金融機関から誘われるままに、退職金の多くを投資にあてることを避けられるはずです。

はたなか まさこ
ファイナンシャルプランナー。
新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演を行う。
「高齢期のお金を考える会」「働けない子どものお金を考える会」などを主宰。
最新刊『70歳からの人生を豊かにするお金の新常識』(高橋書店)など著書多数。

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