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発展した街の歴史とともに歩み続ける

近現代建築 × 大阪・神戸

文=津曲克彦 写真=ハリー中西、橋本正樹、道海史佳

都市の発展とともに芸術的な建築物が 次々に建てられた大阪・神戸。
レトロ、モダン、コンテンポラリーと、多彩な表情をもつ建物が街に溶け込む姿を じっくりと鑑賞しながら歩きます。

子どもの好奇心に刺さる
仕掛けが施された名建築
大阪の名建築が多く集まる中之島エリア。堂島川と土佐堀川にはさまれた水と緑豊かなこの場所は、大阪の文化芸術の中心地の一つとして発展してきた。そんな中之島にあるこども本の森中之島は、大阪出身の建築家・安藤忠雄さんが設計・寄贈した文化施設だ。白とグレーを基調とした弓なりに延びる外観と安藤建築らしいコンクリート打放しの幾何学的なデザインは、中之島のシンボルとなっている。「本や芸術文化を通じて、子どもたちに豊かな想像力を養ってもらう施設として活用してほしい」。そんな安藤さんの思いが詰まった館内に、書籍や絵本、写真集など約2万冊を所蔵している。天井まである本棚には同館が独自の基準で定めた12のテーマに沿って本が並び、階段やブリッジ通路が立体迷路のように巡る。その光景はさながら「本の森」を思わせ、子どもはもちろん、大人の知的好奇心も刺激する。

一般的な図書館であれば本を読む場所が定められているが、同館にはそのような決まりはいっさいない。大階段や屋根裏部屋を思わせるスペース、本棚と本棚の間に設けられた隙間だってここでは立派な読書スペース。子どもに交じって大人が本の虫になっているのがこの施設では日常の光景だ。また、高さ約12mある円筒形の休憩室では、本への興味の入口となる映像作品を上映。本から切り取られた物語の断片を通じて、訪れた人を物語の世界へと誘う。子どもの目線の位置に造られた窓や北欧ブランドのスツールなど、読書環境にも細かな工夫がなされているのも、安藤さんのこだわり。幼いころ無我夢中で読書に明け暮れた、そんな昔を思い出しながら読書に浸る特別な時間を過ごした。

続いて訪れたのが、大阪市中央公会堂内にあるレストラン・中之島ソーシャルイートアウェイク。この日、オーダーしたのは、デミグラスソースを使った牛肉煮込みのオムライスランチ。ふわトロのオムレツにトロトロに煮込んだ牛肉のデミグラスソースがマッチして絶妙なおいしさ。国指定重要文化財のレトロな空間でじっくりと味わった。

世紀を超えて愛され続ける
シンボリックな公会堂
ランチの後、改めて大阪市中央公会堂を鑑賞する。ネオ・ルネサンス様式の歴史的建造物は、「義侠の相場師」とよばれた株式仲買人・岩本栄之助の寄附金をもとに着工。デザインは、当時の一流の建築家たちによる設計競技が行われ、のちに明治生命館などの傑作に携わった、当時29歳の岡田信一郎の案が選ばれた。岡田の原案をもとに設計を指揮したのは、東京駅を手がけた辰野金吾と、辰野の関西におけるパートナーの片岡安〈かたおかやすし〉。赤い化粧レンガと中央を丸く盛り上げる目地仕上げの「覆輪目地〈ふくりんめじ〉」という技法は、東京駅にも共通する。また、本物の花崗岩〈かこうがん〉と「擬石」とよばれる花崗岩に似た素材を巧みに使うことで、赤レンガとの美しいコントラストを生み出している。公会堂内では、アインシュタインやヘレン・ケラーらの講演会も行われ、大阪の文化芸術の発展に寄与してきた。

中之島とその周辺には、ほかにも近代建築が存在する。その一つが、難波橋のシンボル・ライオン像だ。市章を組み込んだ高欄や華麗な照明灯、石造りの階段などとともに設置されたもの。狛犬のように阿吽〈あうん〉の表情が雄々しく、大大阪時代の繁栄を今に伝える。大阪市中央公会堂の隣にある大阪府立中之島図書館は、大阪を本拠地として事業を行ってきた住友家の寄付によって建設。ギリシャの神殿のような威風堂々とした姿は見る人を圧倒する。御堂筋に面して立つ日本銀行大阪支店(旧館)は、ベルギー国立銀行等をモデルに、辰野金吾らが設計。緑青が美しいドーム型の屋根が印象的な、本格的西洋建築だ。中之島から少し歩いた北浜にも訪ねたい名建築がある。根強い人気を誇る建築の一つ、日本基督教団浪花教会だ。ゴシック様式の尖塔窓と黄色や緑色の色ガラスが配され、意匠性の高さを感じさせる。

(ノジュール2025年6月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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