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料理人を魅了する食材の宝庫

富良野・美瑛

文=西上原三千代、編集室りっか イラスト=千葉毅

東京・青山から富良野へ
自然と食材に惹かれて
緑の森の小径の先にレストラン、ル・ゴロワフラノはたたずんでいる。マダムの大塚敬子さんの笑顔に迎えられて店内に入ると、窓の向こうには馬が草を食〈は〉む広々とした牧草地。ル・ゴロワは25年以上も東京・青山で営業し、多くのファンをもつ料理店だった。シェフの大塚健一さんは当時から北海道の食材を取り寄せていたが、北海道で暮らし、食材の生まれる地で料理をしたいと夫妻で富良野に移住。2018年にこの地で店をオープンした。

ランチの始まりはシェフのスペシャリテ、ル・ゴロワサラダ。丁寧に手をかけられた、約30種の新鮮な野菜や魚介、肉がひと皿に盛られている。元気な食材はひとつひとつが饒舌で、賑やかなサラダだ。旬のホワイトアスパラのヴィシソワーズ、ホタテとスナップエンドウの軽やかなパスタを味わい、いよいよメイン。肉や魚は薪の火で焼く。シェフがつきっきりで最良の按配に火を通したエゾ鹿のステーキは香ばしさと肉のうま味が絶妙に響き合い、軟らかくて滋味深い。

信頼し、尊敬する生産者の食材のもち味、よさを最大限に生かした料理の数々だ。「とにかく食材がすばらしいので、お客様に何も説明する必要がないんです」とマダム。そして毎朝、富良野の自然の美しさに幸せを感じるという。店にもその幸せな雰囲気が満ちていてリラックスしてご馳走を楽しめる。

隣には風のガーデンがある。お腹がいっぱいになったら、6月に満開のバラの香りを楽しむお散歩を

体が喜ぶ滋味を
生み出す農の力
十勝岳を間近に望む多田農園は明治時代に入植し、120年以上も続く開拓農家だ。3代目の多田繁夫さんは農薬散布の際の事故で目の病を負ったことをきっかけに、農薬・化学肥料を使わないニンジン栽培に力を注いだ。そうして生まれたにんじんジュースは体が喜ぶジュースとしてリピーターの愛飲者で時に売り切れになるほどだ。

多田さんがワインのブドウ栽培を始めたのは約20年前。「マイナス25℃にもなる風土にどんな結果が出るか未知の世界でした」。北海道で栽培されることが少なかったピノ・ノワールに挑戦。凍害でほぼピノ・ノワール以外の品種も全滅という苦難も。「雪に守られたわずかな部分から出た芽で幹作りを始め、復活したメルローがとてもよいブドウになりました」。息を吹き返したブドウがおいしいワインになった。「この農地の地下には富良野岳・十勝岳の伏流水が50万年前から豊富に流れています。連綿と続く自然の営みに比べて人間の力などごくわずかです」と言いながら、多田さんは手作業で草刈りをし、野生酵母でピノ・ノワール、シャルドネ、メルロー、バッカスなどのワインを醸している。農家のワインは自然と人との合作なのだ。

宿泊はホテルナトゥールヴァルト富良野。富良野らしい朝食がお目当てだ。契約農家の朝どり野菜のサラダから、地元産のソーセージやハム、各地から届く海産物まで、50種以上の料理がビュッフェで味わえる。

(ノジュール2025年6月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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