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太平洋を見晴らす産業遺産と信仰の山
鋸山日本寺〈千葉県〉
鋸山は低山ながら、石切場跡の産業遺産やダイナミックな断崖、東京湾のパノラマも楽しめます。
さらには日本一の摩崖仏や観音に癒やされ、新鮮な魚に舌つづみ。ひと足早く春が訪れる房総半島で低山ハイクを楽しんでみませんか。
日本の近代化を支えた道を
登って絶景に出合う南房総の海辺の町·金谷〈かなや〉。この町はかつて「石の町」ともよばれていた。海に面してそびえる鋸山は房州石〈ぼうしゅういし〉の産地で、山から切り出された石は耐火性に優れ加工しやすかったことから、東京や横浜に運ばれ、靖国神社、早稲田大学、横浜港などの建設に利用された。セメントの登場によって鋸山の石材業は衰退したが、当時房州石を運んだ山の道は登山道として整備され、山頂、そして尾根の反対側にある鋸山日本寺〈にほんじ〉へと続いている。
JR浜金谷〈はまかなや〉駅から10分ほど歩くと分岐がある。中央の道は自然と歴史を楽しめる関東ふれあいの道で、393段の階段から始まる頂上への最短ルート。左側は昔、人力で石を運んだことから「車力道〈しゃりきみち〉」と名付けられた道。今回はみどころが多いこのコースへ。分岐から20分ほど歩くと車力道が始まる。
鋸山北側斜面の緑の中をうねるように続く、石畳のような道を歩いてゆく。石切りは男性の仕事、そして切り出された石を麓に運ぶ車力は女性の仕事だったという。1本80㎏ほどの房州石3本を手押し車(「ネコ車」とよばれた)に載せて運搬したそうだ。ただ登るだけでも息が切れてくるのに、石を運ぶのはどんなに重労働だっただろう。車力の仕事は1日3往復、昭和35年(1960)ごろまで続いたという。
小一時間歩き、尾根に近づくと石切場跡が見えてくる。登山道から少しだけ右手に入った猫丁場の岩壁には、石切職人が彫った赤い首輪の猫がいて、ほっと心和む。ベンチでひと息いれ、100mほどの最後の急な登りに臨む。登りきるとそこはもう尾根道だ。
いったん左に折れ、東京湾を望む展望台へ。途中から眼下にパノラマが広がり始める。東京湾、三浦半島、その向こうに相模湾、そして富士山!青のグラデーションが見事な絶景だ。
今回は鋸山頂上を目指さず、来た道を少し戻り、産業遺産を訪ねよう。神秘的な雰囲気が漂う切通し跡を通り、縦に石が切り出された跡がそびえる観音洞窟に出る。近づくと岩肌に素朴な観音像や石切店の屋号が刻まれている。石切場の巨大さを存分に目にすることができるのが、岩舞台。かつて使われていた重機が赤茶色に錆びたまま置かれている。ハイライトはその先にあるラピュタの壁だ。垂直に切り立った約96mもの断崖。これも石切場の跡だというから驚きだ。足がすくむような斜面でどのようにして石を切り出していったのか。想像するだけで、先人の努力と心意気に胸が熱くなる。
