五十の手習い 第12回

今からでも夢中になれる趣味、打ち込める何かを見つけたい――。
そんな読者の皆さんのヒントになり、背中を押すきっかけになるような習い事をご紹介する「五十の手習い」。第12回はペン字にチャレンジ。
いくつになっても「美文字」に変われる、習得の道をご紹介します。

ペン字

「字は人を映す」
だから整える価値がある
「ペン字とは、ボールペンなどで書く実用の書。字の〝姿〞にその人そのものが表れると感じる人が多い。だからこそ、整える価値があると思います」。そう語るのは、東京・青山一丁目ペン字筆ペン教室講師の川南富美恵さんだ。自分の字に自信がある人はそう多くはない。川南さんの教室にも、「字が下手で、人前で書くのが恥ずかしい」と打ち明ける人が訪れるという。「皆さん、きれいに書きたいと思っているんですよ」。コンプレックスを抱えながら、そんな願いがある。その気持ちに応えたいと、ペン字教室を始めた。

かつて美しい字は、営業職や接客業などにおいて〝対外的な武器〞として求められることが多かった。しかし近年は少し様子が違う。「手帳や日記をきれいに書きたい、自分で見る字を整えたいという方が増えました」。手書きの機会が減った今、美しい字はむしろ際立つ。わざわざ書く、その行為自体が価値になる時代なのだ。「字はセンスではありません。ルールです」。中心線を意識する、横線の間隔を揃える、「口」の縦線は少し内側に倒す――。川南さんが長年培ってきた具体的な法則を順に身につければ、誰の字も確実に変わるという。

美文字は世界を広げ 豊かさを与えてくれるまずはふだんどおりに住所と名前を書く。川南さんが赤ペンを使って指摘する。「ここ、中心が左に寄っていますね」「口は縁起よく、大きく書きましょう」。字を具体的に直される経験は新鮮で、癖を知ることが美文字への第一歩だ。練習を重ねると、余白が整い、字が美しく見える。こんなにも丁寧に字に向き合う時間を、これまでもったことがあっただろうか。ペン先に集中する時間は思いのほか心地よい。「字が整うと、自信がつくんです」と川南さん。人に字を見られるのが嫌だったという人が、今では進んで手紙を書くようになった例も。「お礼状を書きたくなる、季節の言葉を集めたくなる。美しい日本語に目が向くようになるんです」。書くことが人間関係や日々の楽しみを広げていく。

また、手を動かすことは脳へのよい刺激にもなるという。「一日数分でも字を書く時間をもつと、心が落ち着きます」。俳句や茶道など、言葉や所作を大切にする趣味との相性もよいという。整った字は、ほかの世界にも静かに響く。「必勝法があります。正しい順番で練習すれば、誰でも美文字になります」。必要なのは紙とペンだけ。新しい趣味を増やすというより、今ある楽しみを豊かにする手習いである。

川南 富美恵〈かわみなみ ふみえ〉
青山一丁目ペン字筆ペン教室主宰。
幼少期から書道師範の父に師事。国会議員秘書や出版社勤務を経て、手書きの力を実感し教室を開く。指導実績は2000人超。
著書に『字がきれい!はいいことづくし』(評言社)ほか。

(ノジュール2026年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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