お悩み解決!旅するカラダ 第20回

旅行の医学・薬編

大越裕文 先生
(文:湯浅真弥 イラスト:安齋 肇)

旅先では思いがけない病気やケガがつきもの。持病を抱えている人はなおのこと、
健康な人であっても常備薬は持ち歩いたほうが安心です。服薬の際に気になる水も解説します。

持参する薬の種類と量

持参する薬の種類と量は、旅行先や日程、自身の持病などを考慮して決めてください。万が一のときのために、現地で調達する方法も事前に調べておくといいでしょう。

常用薬は日程の2倍分が目安海外旅行に持参する薬には2種類あります。持病を抱えている人が日々飲んでいる常用薬と、頭痛薬や風邪薬などの市販薬です。

以前、巨大台風に見舞われたグアムの空港が数日間にわたって閉鎖されたことがありました。数千人の観光客が現地で足止めにあったのです。このように天候の変化や、最近ではテロの影響などにより、帰国の予定が思いがけず延びることもあります。そのために、持病の常用薬は予定している旅行期間の2倍分を携帯するといいでしょう。

コレステロール値や尿酸値を下げるための薬は、1日や2日飲まなくても健康上の大きな問題が起きる可能性は低いのですが、高血圧や糖尿病の場合は、薬やインスリン注射を中断するとたいへん危険です。

ただし、万が一、必要になったときは現地でも調達は可能です。商品名や成分名が英語で表記されたメモを持って行ってください。スペルを間違うといけませんから、かかりつけのドクターに書いてもらうか、インターネットのサイトからダウンロードするか、いずれかがいいでしょう。

市販薬は必要最小限で一方の市販薬は、頭痛薬をはじめとして、胃腸薬や酔い止め、かゆみ止め、解熱鎮痛薬などを持参すると、ちょっとした体調不良に対応できます。

その他、消毒剤やばんそうこう、ガーゼ、綿棒、バンドエイド、浣腸、整腸剤、虫除けスプレー、殺虫剤なども必要性に応じて持って行くと、何かあったときに便利です。

なお、糖尿病の治療にインスリン注射を用いている人は、使用済みの注射針の処分には気をつけてください。飛行機の席の背もたれにあるポケットやトイレのごみ箱に入れておく人がけっこういるようで、整備や清掃をする際にケガのもとになっているそうです。

インスリンは冷所保存が必要となります。ドライアイスは凍りすぎますから、移動中は保冷剤をタオルで包んで保冷バックなどに入れるなどの工夫をしてください。

水に関する注意点

日本と外国では生活習慣の事情が異なります。
もっとも大きな点のひとつが水道事情です。生水が飲める国なのか。
飲めないときは事前に対策を考えておかなければなりません。

下痢の対策も怠らないアジアやアフリカなどの発展途上国において生水は万病のもとと考えておきましょう。

まず、煮沸した水は安心です。ホテルの部屋に湯沸しポットがあれば、それで煮沸するといいでしょう。ペットボトルに入ったミネラルウォーターも同様ですが、中にはまがい物もありますから、購入する際に店を選ぶ必要があります。ただし、炭酸入りのミネラルウォーターはだいたい大丈夫でしょう。氷が入った飲み物も安心できません。氷は水道水から作られているからです。

屋台は衛生的に問題があるところもありますから、店舗を構えていて、さらには外国人向けの店が安全です。

下痢になってしまった時に怖いのが脱水症。脱水症には、スポーツドリンクやそれと同じように食塩とブドウ糖を含むORS(経口補水液)が効果的です。腸からの吸収速度は水の20倍以上といわれ、素早く脱水症状を改善してくれます。持ち歩きに向いている粉末が市販されているので、日本でインターネットやクリニックから購入しておくといいでしょう。まずORSを、辛いときは下痢止めを飲んでください。

発熱や血便などを伴うひどい下痢の場合は、下痢止めを飲んではいけません。抗生物質を飲んでください。抗生物質は医師に処方してもらって日本から持参するのがいいのですが、日本の医師はそのような方法に慣れていません。現地の病院で処方してもらうのがいいかもしれません。

暑い旅先へ行くときは熱中症にも気をつけなければなりません。熱中症になったら、日陰やエアコンの効いた場所で体を休めるとともに、太い血管の通っている首や脇の下を冷やすと温度の下がった血液が全身をめぐりますから、体温を下げてくれます。脱水症状の対処法は下痢のときと同じです。

(ノジュール2014年6月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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