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新国宝・萬福寺を知る旅

文=mado.lab 写真=マツダナオキ、鈴木誠一

異国情緒あふれるたたずまいは創建当時から今もそのままに、2024年10月、萬福寺の主要伽藍、大雄寶殿、法堂、天王殿の3棟が国宝指定となりました。
そんな話題の萬福寺を目指して、宇治・黄檗の地を訪れます。

異国の様式を色濃く伝える
国宝伽藍が並ぶ境内へ
JR京都駅から黄檗〈おうばく〉駅へと向かう。黄檗とは漢方にも使われる植物「キハダ」のこと。中国福建省にある黄檗山萬福寺(古黄檗)周辺はキハダの木が生い茂っていたことが山号の由来だとか。そんな宇治・黄檗の地にある黄檗宗大本山の萬福寺を開創したのは、その古黄檗の住持だった僧・隠元隆琦〈いんげんりゅうき〉禅師。禅師は来朝後、皇族や幕府の崇敬を得て宇治大和田に約9万坪の寺地を賜り、寛文元年(1661)、中国の自坊を模し、寺名も同じくして萬福寺を開いた。ゆえに、主要伽藍を一直線に並べ、諸堂を左右対称に配して回廊で結ぶ伽藍配置から建築様式、さらに朝夕のお勤め、儀式作法などに至るまで、中国式の特徴を創建当時のまま色濃く残している。総門、三門をくぐって境内に入ると、どこか異国の雰囲気を感じるのはそのためだ。

そんな萬福寺の本堂が、境内最大の伽藍で、2024年10月に国宝に指定された大雄寶殿〈だいおうほうでん〉。東南・南アジア原産のチーク材を使った建造物で、日と月を表す円窓、アーチ形の蛇腹天井など、同寺の建築の特徴もよく分かる。本尊の釈迦如来坐像をお参りした後は、左右に並ぶ十八羅漢像〈じゅうはちらかんぞう〉も鑑賞しよう。

大雄寶殿に続いて、同じく国宝指定となった法堂〈はっとう〉へ。創建翌年の寛文2年(1662)に建立された歴史ある建造物で、明治時代に中国風の瓦葺きとなったが、2017年から行われた改修工事で創建時の日本風のこけら葺きに復元。中国と日本の折衷様式を伝える本来の姿となったことが、今回の国宝指定につながったという。説法の舞台となる須弥壇のみが置かれている堂内では坐禅が行われることも。静かに拝観しながら、ひとりの時間を満喫することができる。

一方、大雄寶殿の前にある国宝指定の天王殿は、萬福寺の玄関として設けられた建物。本堂の前に堂を配置し、弥勒菩薩〈みろくぼさつ〉と韋駄天〈いだてん〉、両脇に四天王を祀るのは中国では一般的だという。その弥勒菩薩は、存在感たっぷりに鎮座する布袋〈ほてい〉尊。布袋は南宋の高僧・契此〈かいし〉のことで、徳の高さから中国では弥勒菩薩の化身とされている。契此が袋をかついで旅していたことからそうよばれるようになった布袋尊はもちろん、韋駄天、四天王にもぜひ参拝を。

国宝指定の伽藍以外にも隠元隆琦禅師を祀る開山堂、壮大な三門など、みどころは多彩だが、境内の黄龍閣で禅師が日本に伝えた黄檗文化の一つ、普茶〈ふちゃ〉料理を昼食とした。普茶料理は身分の隔たりなく一卓に4人が座し、大皿に盛った精進料理を和気あいあいと食すのが作法。今回は1人でも予約できる普茶弁当で、雲片〈うんぺん〉や油茲〈ゆじ〉など代表的な料理をいただいた。黄龍閣の隣には、2021年からアーティストの創作活動と発表の場になっている香福廊も。週末は散策時にひと息つけるカフェとしても営業している。甘味として味わえるごま豆腐は絶品。アーティストの滞在は不定期(公式ホームページを確認)だが、これまでの滞在アーティストによる御朱印なども揃えている。

また、萬福寺では国宝指定記念の一環として2025年2月2日まで夜間特別拝観を開催。旅の予定が合えば、提灯などが飾られた夕方からの雰囲気ある境内を散策するのもおすすめだ。

(ノジュール2025年1月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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