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のんびりと春の1日を満喫

ローカル列車に揺られて桜咲く山里へ

文:杉﨑行恭 写真:坪内政美、杉﨑行恭

岐阜県の自然を満喫できるローカル線・樽見鉄道。
沿線は桜の名所として鉄道ファンに人気があります。
終点の樽見駅には日本3大桜の淡墨桜が旅人を優しく迎えます。

各駅を彩る
名花に会いに行く
JR大垣駅の6番線には樽見《たるみ》鉄道のハイモ形ディーゼルカーが待っていた。セミクロスシートの座席に座れば、隣を走る東海道本線とは違ってゆったりとした気分になる。今日はこの列車に乗って満開の桜を訪ねようと思う。

樽見鉄道は昭和59年に国鉄樽見線(大垣〜神海《こうみ》)を引き継いだ第三セクター鉄道で、平成元年に神海から樽見まで延伸した路線だ。そして終点の樽見には日本三大桜のひとつ、樹齢約1500年の淡墨桜《うすずみざくら》があることでも知られている。加えて沿線の駅には桜が植えられ、春爛漫の風景を楽しめる鉄道として人気がある。

さて、大垣駅を出たハイモは濃尾《のうび》平野を流れる揖斐《いび》川を渡る。その先で進路を北に変えると前方に岐阜・福井県境の山脈が見えてきた。樽見鉄道の車両基地がある本もと巣す駅を過ぎれば、いよいよ駅の桜が期待できる。

戦国武将にして茶人、古田織部《おりべ》の領地だったという織部駅の先で根尾川が近づいてきた。さっそく最初のサクラ駅、木知原《こちぼる》駅に着く。「去年の台風でだいぶ倒れました」と話す運転士さんだが、残ったソメイヨシノが精一杯の花で迎えてくれる。次の谷汲口《たにぐみくち》駅は鉄道ファンに知られた桜の名所だ。根尾川の鉄橋を渡るとピンクの森が近づいてくる、谷汲口駅だ。大勢がカメラを構える中、満開の桜を背にしたハイモは千両役者のように進入していく。

保存電車と桜のトンネル
根尾谷の奥に伸びるレール
谷汲口駅の構内には20本ほどの桜が競うように花をつけていた。地元の人に聞けば「工事は戦前に完成していたけれど開業は昭和31年。桜はその頃に植えた」という。根尾谷初の鉄道を迎えた人々の気持ちが桜に宿っているように感じられた。

ところで谷汲口の駅名は西に4㎞ほど行ったところにある谷汲山華厳寺に由来し、その参道も岐阜県屈指の桜の名所だ。しかも平成13年に廃止された名鉄谷汲線の古電車が保存されているという。

谷汲口駅からバスで8分、今は谷汲昆虫館になっている旧谷汲駅で往年の電車、モ514に会えた。その塗装から「赤白電車」と呼ばれる電車は大正生まれ。思わず走っていた頃を想像してしまう。

谷汲山華厳寺参道の桜並木に出た。遠方まで桜のトンネルが続く眺めは圧巻だ。「仁王門までは900m、昭和の初めの参道拡幅時に植えたもので、桜とモミジが交互に植えられています」と観光協会の梅田正文さん。週末には歩行者天国になる参道は茶店や土産物店が並び、真っすぐ歩けないほど楽しい参道だ。「ここは秋のモミジも素晴らしい」と梅田さん。「ケムシの予防まで私らでやっています」という。花は一瞬だが、地元の人たちの努力によって桜が維持されているのを痛感した。

谷汲口駅に戻る途中、個性的な喫茶カザミドリで一服。再びハイモに乗り、何度目かの鉄橋を渡ったところに日当《ひなた》駅があった。満開の桜に囲まれたホームはそのままジオラマ模型にしたくなるような風景だろう。

(ノジュール2019年3月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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