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こだわり1万円宿 第37回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

北海道

やぎしりゲストハウス
やすんでけ

主人の夢と豊かな自然が旅人に新たな出会いをもたらす

きっかけは地域起こし
夢を追って離島へ
いつもの旅は訪ねる場所を決めてから、宿を探す。しかし、時には宿が目的になることもある。昨年の焼尻島《やぎしりとう》がそうだった。

40年以上前に初めて焼尻へ行った当時は、全盛期のユースホステルに泊まったが、いつの間にかなくなってしまった。

東京で行われる島のイベント「アイランダー」で、焼尻の元地域おこし協力隊の奥野真人さん(おっくん)が、長年の夢を実現させて2017年地元でゲストハウス(以下、GH)をはじめたと知った。観光客が訪れる期間は、1年の3分の1ほどしかない焼尻で、どんな宿をどのように運営しているのか、気になった。

焼尻港の案内所でもらった地図を片手にGHを探し当てたが、誰もいない。玄関には、「所用につきスタッフ外出中。手荷物は玄関に置いてかまいません」とある。

もちろん鍵などかかっていないので、勝手に中へ入ってひと休み。建物はリフォームだが、洗面所もトイレも風呂も水回りはピカピカで気持ちいい。荷物を置いて出かけようとしたら、おっくんが山菜の束を抱えて戻ってきた。

挨拶を交わし、カメラだけ持って島の散策へ。国の天然記念物オンコの原生林やミズナラやアカエゾマツも生える混交林の小径を巡る。森には、静かで力強い生気が満ち、佇むだけで気持ちいい。オンコの森の西に広がる牧場では、体は白く頭と脚の先が黒い羊が、海を背景にのんびり草を食んでいる。肉用羊のサフォーク種だ。昼食は、港の前の食堂でサフォークの焼き肉を堪能した。

島の味を分かち合う
ゲストハウスの楽しみ
宿の基本は素泊まりだが、夕食については自炊形式でおっくんや他のゲストと一緒に作る。食材は主に島産で割り勘(1500円程度)だ。

宿泊時のメインは、おっくんが朝に採ってきたギョウジャニンニクの茎とグリーンアスパラを、ギョウジャニンニクの葉と豚バラ肉で巻いたもの。

その他に、ヤリイカの刺身、ヤリイカと馬鈴薯の煮物、ミニホタテのフライ、キュウリとタコとワカメの酢の物、島海苔入りお吸い物と、なかなか充実していた。お酒は、持ち込みで自由にどうぞ。

協力隊になる前は食品関係の会社に勤めていたというおっくんは海藻にも詳しく、島海苔の吸い物は香り高く絶品だった。

昨年からウニ漁に参加しているという。漁期が来たらおすそ分けがあるのか聞くと、採ったウニは一度漁協に納め、それを再び買い取らなくてはならないので、手ごろな値段で食べるのは難しそう。

朝食は、サービスで素泊まり料金に含まれており、とろっとろのガラメ(ガゴメではない)昆布の味噌汁、焼尻のモズクとミニトマトの酢の物、生卵が並んだ。

もちろん、追加の食材を持ち込んでもかまわないが、小食の身としてはこれで十分だった。おっくんが採った海藻を、お土産に購入することもできる。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書に『日本の島 産業・戦争遺産』、『日本《島旅》紀行』、『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2019年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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