「新時代医療(ネオメディカル)」のススメ 第4回

日々進歩する予防医学。
新元号となる2019年は、“未病”対策を見直してみませんか?
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遺伝子検査で
認知症のリスクをチェック

白澤卓二先生
(文:大政智子 イラスト:安齋 肇)

認知症についての研究が進み、遺伝子を調べることで認知症発症のリスクが、ある程度わかるようになりました。
いまや認知症はリスクを知って備える時代。
生活習慣を改善することで対策が可能です。
今月は認知症の遺伝子検査について、白澤卓二先生にお話を伺いました。

100歳時代を乗り切るには認知症対策が必須超高齢化社会となった日本では、認知症の患者数が増え続けています。

厚生労働省が2015年に発表したデータによると、12年時点で65歳以上の約7人に1人が認知症であり、25年には700万人に達する(約5人に1人)と推計されています。

急増する認知症ですが、現在の医療では〝治らない〟病気と言われています。しかし、白澤先生は「認知症の大部分を占めるアルツハイマー病は治せる時代になりました」と断言します。

白澤先生はお茶の水健康長寿クリニックで、独自の「解毒・神経再生治療(自費診療)」を行っています。

クリニックでは治療の前にさまざまな検査を行っていますが、患者さんは必ず「AアポイーPOE遺伝子検査」を受けます。APOE遺伝子はアルツハイマー病を発症する人の約6割が持つとされる遺伝子で、ε(イプシロン)2、ε3、ε4と全3種類あり、2つが一組になっています。実は、このうちε4を持っている場合、持たない人よりもアルツハイマー病の発症リスクが高くなることがわかっています。

白澤先生がこれまで診察した患者さんのデータでは、ε4を2つ持っているのは約100人に1人の割合で、40〜50代と若い年代で発症する若年性アルツハイマーが多くを占め、発症確率は、ε4を持たない場合を1とすると10〜15倍と顕著な差がありました。ε4を1つ持つケースは約4人に1人で、50〜60代での発症が多く、発症確率は5〜7・5倍とのことです。

APOE遺伝子が認知症に関与することは、1990年代にわかっていたのですが、当時は検査することに対して否定的でした。検査でリスクがわかっても、治療法が確立していなかったためです。

認知症のメカニズムが明らかになってきた現在、APOE遺伝子検査に対するイメージも変わってきました。白澤先生も患者さんがε4を2つ持っていた場合、息子さんや娘さんにも検査を受けたほうがいいとすすめています。

遺伝子検査といっても少量の血液を採取して、APOE遺伝子の有無と種類を調べるだけ。APOE遺伝子検査が受けられる医療機関は限られていて、保険適用外の検査ですが、費用は1〜2万円程度です。

アルツハイマー病は、症状が出ていなくても少しずつ進行しています。APOE遺伝子検査を受けて自分のリスクが高いことがわかれば、生活習慣の見直しなどでリスクが下がります。次からふだんの生活でできる認知症予防を紹介するので、参考にしてください。

食事や睡眠、運動など
予防のためには生活習慣がカギ
特に重要なのが食事です。香菜やブロッコリー、キャベツなど解毒作用の高い野菜のほか、腸内環境を整える発酵食品や食物繊維の多い食品もおすすめです。ほかに、脳にダメージを与える高血糖状態を避けるためにごはんを控えることも重要。また、パンやめんなど小麦製品は認知症のリスクを高めるのでできるだけ避けましょう。

質のいい睡眠も大切です。睡眠は脳にたまった老廃物を洗い流す、いわば脳の掃除をする大事な時間。睡眠時間が短いほど認知機能の低下は進みやすく、睡眠不足は認知症に直結すると言っても過言ではありません。

コーヒーや緑茶などカフェインを含むものは夕方6時以降は飲まない、就寝前にはぬるめの湯に入る、寝る2時間前からはテレビやパソコン、過度な飲酒や激しい運動を避けるなどして、熟睡できる環境をつくりましょう。

そしてもうひとつ忘れてならないものが運動です。運動は認知機能の低下を抑制します。その効果は明らかで、運動をもっとも効果的な脳トレと断言する研究者もいるくらいです。

認知症予防には1日30分の有酸素運動がよいと言われます。散歩がてら歩きましょう。時間がとれない場合は家の中で階段を上り下りするだけでもOKです。1分間、できるだけ速いスピードで階段を往復すると、30分程度のウォーキングと同じような効果が得られます。転ばないように気をつけて行ってください。

APOE遺伝子はあくまでも遺伝的要因を調べる検査です。環境要因も関係しているのですから、ε4を持っている人が必ずアルツハイマー病を発症するわけではありません。ε4の有無に関わらず、認知症予防に効果的な生活を心がけましょう。

しらさわ たくじ●お茶の水健康長寿クリニック院長。白澤抗加齢医学研究所所長。米国ミシガン大学神経学客員教授。
1982年千葉大学医学部卒業後、東京都老人総合研究所などを経て2007~15年、順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。
日本におけるアルツハイマー病研究の第一人者。
ohlclinic.jp

(ノジュール2019年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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