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霊峰✕徳川

富士の絶景と駿河の歴女旅

文:塩田典子 写真:宮地 工

絶景の代表といえば、富士山。
澄んだ空に堂々と屹立する姿をみると、いつでも元気をもらえます。
清々しい新緑の女ひとり旅のテーマは、その富士山と静岡DC。
胸躍る風景に 徳川家の歴史を重ねて、いざ出発!

日本平山頂に誕生した
富士山一望の新名所
一年の約3分の1しかお目に掛かれないと言われる富士山が、新幹線の車窓にくっきりと映えた。今回の旅の目的のひとつは富士山の絶景スポットを巡ること。旅の神様は、私のひとり旅に味方してくれたようだ。

静岡駅に着いたら、まずは腹ごしらえから。「浮月楼〈ふげつろう〉」は、江戸時代の幕府代官屋敷を経て、維新後には逼塞した15代将軍・徳川慶喜〈とくがわよしのぶ〉が20年間住んだ屋敷跡だ。「建物は昭和15年の静岡大火で焼失してしまいましたが、庭園の形状や植栽は往時の面影を色濃く残しています」とはサービス統括マネージャーの羽根田陽亮〈はねだようすけ〉さん。明治25年(1892)に料亭となり、かつて京都の庭師・小川治兵衛〈おがわじへえ〉が作庭したと言われる庭園は、いまも“東海の名園”と名高い。

敷地内のレストラン「浮殿〈うきどの〉」ではこの庭園を眺めつつ、料亭の懐石料理を味わえる。池泉回遊式庭園では、由緒ある灯籠や慶喜お手植えの台湾竹が目を楽しませてくれた。続いて向かったのは、富士山を望む景勝地・日本平〈にほんだいら〉山頂。昨年11月、ここに新たな展望施設がオープンした。標高307mの丘陵地にできたのは、世界的建築家・隈研吾〈くまけんご〉氏率いる隈研吾建築都市設計事務所による八角形の「日本平夢テラス」。デジタル塔を囲むように一周約200mの展望回廊が作られ、360度の大パノラマにあちこちから歓声が上がる。この日は雲ひとつない快晴で、富士山はもちろん伊豆半島、駿河湾、清水港に加え、南アルプスまでが望めた。展望回廊は終日開放されているので、夜景を見に来てもよさそう。施設の1階では日本平の歴史や地形などがタッチパネルで学べ、2階では富士山を眺めながら、県産のお茶メニューが味わえる。

家康埋葬の地・久能山に
徳川家の甲冑が勢揃い
日本平からは、ロープウェイで約5分の「久能山東照宮〈くのうざんとうしょうぐう〉」まで空の旅を愉しんだ。乗り込んだゴンドラは殿様の駕籠をイメージしたという黒を基調にしたシックなデザイン。久能山東照宮は、徳川家康が埋葬されたと伝わる場所で、かつて武田信玄が築いた山城・久能城を前身としているため、麓から登るなら標高216mの久能山上まで急な階段が続く。国宝の楼門や拝殿には見事な極彩色の彫刻や絵画が施されているが、獏〈ばく〉や牡丹など、描かれているモチーフそれぞれに家康の“平和への祈り”が込められていて、心が和んだ。

境内の久能山東照宮博物館では、6月30日まで「徳川歴代将軍名宝展」を開催中。将軍15人の甲冑が集結する日本初の試みとあって見応えは充分。なかでも、国内唯一この博物館にだけ現存するという2代将軍・秀忠〈ひでただ〉の甲冑は必見だ。「7代家継〈いえつぐ〉と10代家治〈いえはる〉の歯朶〈しだ〉具足は、家康が関ヶ原の戦いや大坂の陣に携行し、勝利を収めたことに由来する徳川家の吉祥具足なんです」と、権禰宜〈ごんねぎ〉の竹上政崇〈たけがみまさたか〉さんが教えてくれた。

参拝後は往路と変わって、一ノ門から久能山下まで1159段の表参道石段を下ることに。古くからの参拝路である17曲りの石段は風情たっぷりで、雄大な駿河湾を眼下に下りれば、爽やかな風が心地いい。

(ノジュール2019年5月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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