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こだわり1万円宿 第40回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

三重県

ロスメン石山荘

バリ風の調度品に彩られた、こころ安らぐ一軒宿

リアス海岸の風景を眺めつつ
小島の別天地へ向かう
松阪で、老舗のうなぎ屋で弁当をあつらえてもらい、夕食を確保する。賢島に到着して、駅ビルのコンビニでビールとおつまみを何種類か購入。石山荘へ迎えにきて欲しいと電話した。

今晩の宿は、夕食の提供はない。21時までチェックインできるので、他所で食べてから行くか、食料を持ち込むか。

駅から遊覧船の乗場へ向かうと、対岸に横山島と宿の屋根に書かれた石山荘という文字が見えた。乗場から100mほど先の黒い桟橋で待っていると、白い波を蹴立てて小船が近づいてきた。

爽やかな天候だったので、甲板で風に吹かれながらリアス海岸の織りなす風景を楽しむ。海を渡って小島の宿へ向かう気分は格別だ。別天地には、5分足らずで到着した。

遠目には昔ながらの旅館だったが、館内はバリ島一色。バリ風のおびただしい木彫や仮面、楽器、大きな家具、織物などが、迫ってくる。宿名のロスメンは、バリの民宿のこと。バリに魅せられた主人夫妻が、15年ほど前からコツコツとバリ化を進行中だという。

岩風呂で温まったあとは
満天の星を独り占め
2階の客室へ向かう階段も廊下もバリだったが、客室で途端に日本に戻った。洋室を頼もうか迷いながら、和室を選んでいたからだ。

8畳ほどの部屋には布団が敷かれ、窓際は椅子とテーブルがある広縁になっていた。テーブルの上には、お茶のセット。お茶を啜りながら、夕暮れ時の海と空を眺めているだけで気持ちいい。

室内を見回すと、バリ風木彫のテーブルランプやバリ風の布などが飾られ、手作りの棚も備え付けてある。安全金庫、浴衣・バスタオル・フェイスタオル・歯ブラシもそろっていた。部屋に、トイレもついている。宿泊料金を考えると、上々のおもてなし。

風呂は、1度に3人くらい入れそうな岩風呂が、1階にあった。また、1階にはコインロッカーのような冷蔵庫があり、ルームキーと一緒に鍵を渡されたので、すぐに冷たいビールやつまみを収納した。

ロビーのソファに身を沈め、内はバリ、外は志摩の不思議な感覚を味わってから、桟橋に出た。横山島は周囲1・5㎞ほどだが、住民は石山荘の3人だけ。道もなく、宿の前しか歩けない。

桟橋で沈みゆく夕陽を眺めていると、何本もの飛行機雲が描かれていく。中部国際空港へ行く飛行機か。もしかしたらと期待していたら、真っ白な飛行機雲が夕陽を浴びて徐々に赤く染まっていった。中にはクロスしてピンクに染まる飛行機雲もある。壮大なページェントを堪能して、またバリ世界へと戻った。

岩風呂でゆっくり温まり、和室で暮れゆく光景を肴に冷たいビールを傾ける。うなぎ弁当は冷えていたが、香ばしくて美味しい。宵闇に包まれると、星が瞬きはじめる。しばらくして室内の灯りをすべて消すと、満天の星空が広がった。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書に『日本の島 産業・戦争遺産』、『日本《島旅》紀行』、『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2019年7月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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