[エッセイ]旅の記憶 vol.80

祭りに見た日本の未来

黒田 涼

城ブームに便乗して、全国の城下町についての本を書いた。「城」の本は多いが「城下町」の本はあまりないからだ。取材のため1年半、日本中の城下町を巡った。

行く先々の街に祭りがあり、大体は山車(だし)祭りだ。日本の祭りの伝統は山車を引き回す山車祭りなのだ。お神輿をあっちでもこっちでも担ぐなどというのは、電線が張り巡らされてからのものだ。

訪れて印象に残った筆頭は、石川県七尾(ななお)市の「でか山祭り」。あまり有名ではないが、高さは12m、最上部の幅13m、重量20tという巨大な山車を運行する。

上に行くほど横幅が広がる逆ハの字の山車の上には、歌舞伎や伝説の場面を、等身大の人形やら城やら神社やらで表して収めている。大掛かりな映画のセットが頭上を動いていく、と言ったらいいだろうか。おかしなことにそのセットには、子供が何人ものんびりと座っている。下から潜って登れるのだ。

初めて見たときは声をあげて笑ってしまった。感嘆、ではない。“でか”いのだがどことなくユーモラス。美しい織物や色とりどりの布で飾られてはいるが、着飾る下地は丸太とムシロ。山車の数も3台で、小さな港町が精一杯、「“でか”くしよう!」と努力した歴史と熱い思いが伝わってくる。

笑ってしまうといえば佐賀県の「唐津くんち」も相当独特だ。山車とは言っても、結構な勢いで走ってくるのは「頭」である。大きな武者の顔や獅子頭が迫ってくる様は異様だ。京都の祇園祭の山鉾(やまぼこ)をヒントに作ったと言うが、山鉾のどこを見るとこうなるのかよくわからない……。これもある時、「うちの山車は頭部でいこう!」と割り切ったのだろうか。そのインパクトはすごい。

愛知県の犬山(いぬやま)祭は、13台の山車全部にからくり人形が載っている。岐阜県の高山祭は夜の運行での提灯が美しい。青森のねぶたも山車祭りだが、あれは動く巨大灯篭人形だ。長浜曳山(ひきやま)祭では全ての山車に舞台があり、なんとそこで芝居まで演じる。

同じ山車祭りでもよくこれだけバリエーションがあるものだと思う。祭り=伝統=変化なし、と思いがちだが、長い歴史の中で、山車が各地方で独自の進化を遂げていったにちがいない。

最近は暗い見通しばかりの日本だが、地方のこうした多様性にはいつも感心してしまう。この多様性から、何か復活の火種が起こりそうな気もするし、日本の将来への希望も感じてしまうのだ。


イラスト:サカモトセイジ

くろだ りょう
作家。1961年横浜市生まれ。大手新聞社記者などを経て作家に。
「江戸歩き案内人」として、東京に眠る江戸の痕跡・史跡を文章やガイドで案内している。
『大軍都・東京を歩く』『江戸東京の幕末・維新・開化を歩く』など著書多数。近著は『日本の城下町を愉しむ』『新発見!江戸城を歩く』。

(ノジュール2019年8月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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