こだわり1万円宿 第41回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

沖縄県

カサ・デ・アマカ

そのゆるさが心地よい日本唯一のハンモックの宿

ラテンアメリカの
風情の装飾がズラリ
トロピカルな吹き抜けで日本初のリゾート空港と評判の下地島空港から、主人の関山直嗣さんのクルマで宿へ向かう。

下地島と伊良部島の間の狭い浅海にかかる国仲橋を渡って、ゆるい坂を少し登ると、2階の壁面にパイナップルが描かれたコンクリートの家が見えた。

日本で唯一のハンモックの宿、カサ・デ・アマカだった。スペイン語で、カサは家、アマカはハンモックだという。

玄関の壁には、ラテンアメリカの仮面や布が飾られ、写真やポスターもいっぱい貼ってあった。居間の一隅に設けられた小さなフロントで受付を済ませ、宿代とレンタサイクル代を支払う。

シャワーは1階、トイレは1、2階両方にある。洋式だが、便座は昔ながらのもの。居間や台所兼食堂、冷蔵庫などは自由に使える。居間や食堂には、静かな音楽が流れていた。奥のラックには膨大なCDがストックされ、本がぎっしり詰まった書棚もあり私設図書館の趣だ。

簡単な朝食がサービスされる、B&B形式。夕食は徒歩5分圏内に、3、4軒ある食堂でとるか、弁当持参でも、食材を調達して電子調理器具で自炊してもいい。

一通り説明を受けてから、2階の部屋へ案内された。傾斜のゆるい外階段を登っていくと、イスとテーブルが置かれたテラスがあり、その前が客屋だった。ドミトリーではなく、個室が基本だ。

部屋には、アマカが吊り下げてある。

夕方のテラスで
冷たいビールを呷る
「まずここに座って、それから」

そういいながら、身をもってハンモックの使い方を教えてくれた。布のハンモックで寝るのは初めて。どうしても馴染めない人用には、布団もあるとか。

体をハンモックの中に沈めて、居心地のいい体勢を探す。体が無理なくそっと包み込まれるようで、いい感じだ。「夏は窓を開けたまま、背中が蒸れることもなく、とても気持ちよく眠れます」

ここですっかり虜になり、自宅でもハンモックにした人が多数いるという。

ママチャリ(1日500円)を借り、伊良部大橋を目指した。サンゴ礁の海を越えて宮古島まで続く大橋を見物して3時頃宿に戻り、テラスで冷たいビールを呷って疲れを癒した。眠りを誘う酔いに身を任せ、ハンモックに倒れ込んで目が覚めたら、6時半を回っていた。

夕食を終えて宿へ戻ると、相客と主人が酌み交わしていて、混ぜてもらう。

関山さんは、アマカをはじめて13年になる。住むべき場所を探し、八重山から北上しはじめて伊良部島と出会い、ここにしようと決めた。全く無縁の地だったが、3回通って宿の建物を借りることができたというから、凄い。自由に改築改装させてくれるが、老朽化が進んでいるので、あと何年宿を続けることができるのかと、少し寂しそう。

宿を一見して気づくようにラテンアメリカが好きで、毎年2〜3月にかけて最低1ヵ月は彼の地を旅してくるという。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書に『日本の島 産業・戦争遺産』、『日本《島旅》紀行』、『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2019年7月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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