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福島県〈喜多方・会津若松〉

蔵と漢字、ラーメンのまちと
手仕事が光る城下町へ

文=堀内志保 写真=堀内 孝

約4000棟の蔵が残り、「蔵のまち」として知られる喜多方。
近年では、游印作りの体験などを通して楽しく古代文字に触れる「漢字のまち」でもあります。
会津若松では、昔ながらの町並みとともに、現代の生活にもあう手仕事が光っています。
古くて新しい会津のむかし町へ。

「蔵のまち」をめぐり
小田付の歴史をたどる
JR喜多方駅を起点に旅を始めよう。歩いて20分ほどの小田付〈おたづき〉地区は、市中心部を南北に流れる田付川〈たづきがわ〉の東側にある。おたづき蔵通りを中心として、短冊状の地割の上に店蔵や土蔵などが立ち並び、平成30年には約15・5haが重要伝統的建造物群保存地区に選定された。

おたづき蔵通りを歩いていると、ひときわ趣のある建物があった。「酒蔵 蔵粋〈くらしっく〉小原酒造」は享保2年(1717)の創業。暖簾に書いてある「くらしっく」とは何だろう。専務の小原富美子〈おはらふみこ〉さんに尋ねてみると「蔵粋はモーツァルトを聴かせて発酵させた日本酒です。演歌やジャズ、クラシックを聴かせてみたところ、酵母の発酵に良い刺激を与えたのがクラシック。なかでもモーツァルトを聴かせたものの質が優れていて、賞を受賞しました」。日本酒とモーツァルトの取り合わせがなんとも面白い。酒蔵の見学をして酒造りについて学び、蔵粋シリーズを試飲。香り高く、すっきりとした味わいに思わずため息がもれる。季節などによって限定品もあり、あれこれ試しながら好みの一本を選ぶことができた。

酒蔵の向かい側にある建物も雰囲気がある。江戸時代に創業し平成29年まで営業していた味噌醤油の醸造元・金忠〈かねちゅう〉のかつての蔵だ。白漆喰の壁が印象的な「新金忠明治蔵」では「たすかりマルシェ」というシステムで、家に眠っていた器や雑貨などを販売している。アンティークの器など、一期一会の出会いがありそうだ。会津木綿の小物など手仕事の品も売られていて、ちょっとしたお土産も買える。

お隣りは江戸時代の店蔵を利用した「新金忠食堂&バル」。コーヒーと味噌ソフトクリームでひと息つきながら、オーナーの星宏一〈ほしこういち〉さんにこの町について聞いてみた。

「小田付では安土桃山時代から定期市が開かれ、周辺の穀倉地帯から物資が集まる在郷町として栄えてきました。良質な農産物や飯豊山〈いいでさん〉の豊富な伏流水を利用して、酒や味噌、醤油などの醸造業も発展したんですよ」。なるほど。歴史を知ると、散策が一層楽しめる。

星さんが営む「和飲蔵〈わいんぐら〉」にも足を伸ばしてみた。明治時代初期の呉服屋の倉庫蔵を利用した店舗には、フランスなど外国産を中心に250種類以上のワインが揃っている。喜多方の蔵はワインにも良い環境だという。

(ノジュール2020年10月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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