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麹は暮らしそのもの。奥ゆかしき蔵の町

横手・増田(秋田県)

文=桐生典子 写真=大塚七恵

かつて東北経済の要衝として栄えた横手市増田町。
商人たちは家の中に蔵を建造するも、その豪華さを知るのは家族だけでした。
「ひけらかさない」という奥ゆかしさ。
一方、肥沃な大地は、豪雪の冬を乗り切る麹文化も育んできました。
その深みを味わいながら、蔵の街を散策してみましょう。

横手盆地の豊かな食が
心のゆとりを生む
「あの、増田に行かれるのでしたら」

おっとりとした声に呼び止められたのは、大曲〈おおまがり〉駅で新幹線こまちから奥羽本線に乗り換えて3駅め。横手駅のホームでのこと。振り向くと初老のご婦人が、まだ停車中の電車に目をやり、増田へはこの先の十文字が最寄り駅であることを教えてくれる。取材班が車内で話していた増田観光のことを耳にし、降車駅を間違えたのではないかと心配されたのだ。横手で降りたのはレンタカーを借りるためだが、思いがけない親切に、心がぽっと和む。

ここ横手盆地は、奥羽〈おうう〉山脈と出羽〈でわ〉山地に囲まれた日本一広い盆地であり、「横手のかまくら」で知られる豪雪地帯だ。同時に、豊かな水量と肥沃な大地が広がる日本有数の穀倉地帯である。「横手市って、食べることにものすごく恵まれているんですよ。お米はもちろん、柑橘類以外は果物も野菜もなんでも育つし、山のものも海のものも手に入る。豊かなんです。だからみんな、なんとなくおっとりしていて明るい。気候も、麹や味噌作りに向いています。雪さえ耐えれば(笑)、本当によい土地」

そう話すのは、「羽場〈はば〉こうじ店」の次女・鈴木百合子〈ゆりこ〉さんだ。田園に囲まれた工場では、父の佐々木喜一〈きいち〉さんが、石室で発酵させた米麹を杉箱から取り出してほぐし、夫の鈴木雅秀〈まさひで〉さんは巨大な圧力釜で蒸した大豆をミキサーにかけるための準備中。工場内は大豆の芳ばしい香りでいっぱいだ。

(ノジュール2021年5月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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