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十勝 緑の大地の美味紀行

陽光が満ちる 緑の牧場と森

文=山口あゆみ(スケープス) 写真=入江啓祐

幸せを感じる “農家製チーズ”「十勝に来た!」と実感する、緑の牧草地や畑が連なる風景。そのなかを帯広空港から車で南に30分、大樹町〈たいきちょう〉にある半田ファームに到着する。半田ファームは戦前の開拓時代から4代続く酪農家。十勝のチーズ作りの先駆者だ。

森に縁どられた緑の牧場には、南十勝の明るい陽光が降り注ぎ、思い思いに寛ぐ牛たちの姿が、北海道の夏の幸福を象徴しているかのようだ。

3代目の半田司〈つかさ〉さんがチーズ工房を案内してくださった。工房ではちょうどモツァレラチーズを作っているところ。ひとりの職人さんが牛乳をホエイ(乳清) の中で手際よく2本のヘラで練ると、隣に控えたもうひとりが手絞りでつやつやの丸い形に丸める。キュッキュッと音がしそうな歯ごたえ、ミルクのほのかな甘さと優しい香り。シンプルなフレッシュチーズだけに、牛乳の味わいとこの手作業にすべてがかかっている。

熟成庫に並ぶ熟成タイプの3種「オーチャード」「チモシー」「ルーサン」はすべて牧草の名前。そこに込められているのは、牛たちの餌から一貫して作っているという思いだ。

国による酪農政策に危機感を覚え、「自分たちの農場を自分たちで守るために」チーズ作りを始めたという半田さん。牧場の森を歩いていると、半田さんを見つけた牛たちが嬉しそうに集まってきた。

“太古の十勝” を感じる森半田ファームからさらに南の広尾町〈ひろおちょう〉にはとても珍しい〝庭園〞がある。持ち主の泉幸洋〈いずみゆきひろ〉さんは長年の夢であった泉の湧く土地に巡り合い、樹々はそのままに、埋め尽くす熊笹を刈った。すると熊笹の影でひっそりと咲いていた花々がやがて素晴らしい花畑を見せてくれるようになったという。「初めて十勝に入植した曽祖父が見た森はこんなだっただろうかと、その名前をとって太四郎の森と名付けました」と泉さん。

この森の花は今では希少な原種が多く、イギリスやドイツから庭師がはるばる訪ねてくるそうだ。木漏れ日が心地よく、緑がかぐわしい。清らかなせせらぎと鳥の声を耳に散策すれば、まさに命の洗濯になる。

(ノジュール2021年7月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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