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森とともにあるのびやかな暮らしを体感

御所野遺跡【岩手県】

文=山口あゆみ(スケープス) 写真=入江啓祐

八戸から海に注ぐ新井田川、 馬淵〈まべち〉川、その支流域には縄文遺跡が点在している。八戸の是川石器時代遺跡から車で1時間ほど、県境をまたいで岩手県一戸町にある御所野遺跡は、縄文中期の集落遺跡で広大な大地に800棟以上の竪穴建物跡が見つかっている。

きききのつりはしという全長120mの木のつり橋で緑の谷を渡ると、その先に緑が美しい縄文のムラが広がる。タイムトンネルを抜けて縄文の世界に到着したようでわくわくする。周辺でもっとも高い茂谷〈もや〉山を望む台地。周辺は森だ。クリ、クルミ、クワ、ウルシなどの木々に山ブドウやマタタビの蔓が群生する。一部の針葉樹を除けば縄文時代に近い植生だという 

公園には縄文時代の遺跡としては全国で初めて確認された土屋根建物が復元され、緑の草を生やして野原にぽこぽこと点在している。復元するにあたっては、縄文時代と同様に、周囲のクリを伐採して柱にし、シナノキの樹皮から取り出した繊維で縄をない、縄文の石斧や土掘り道具でつくっていったという。竪穴建物の建築には多くの木材が必要なことがわかり、縄文人は先を見据えてクリの木を管理育成していたということも明らかになった。

週に数回、縄文時代同様の方法で家を虫から守るため、朝、各建物の中の炉で火を焚き、煙で燻している。建物から煙が上がるのを見ていると、縄文人の毎日の朝もこんな風景だったのではと想像が広がる。理屈抜きで、縄文人が暮らしたムラの平和な空気、風の匂い、自然の美しさに包まれる場所だ。

(ノジュール2022年2月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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