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〈魚沼 – 新潟県〉

ごはんとおかずと温泉と

文=野地秩嘉 写真=阿部伸治、入江啓祐

日本有数のブランド米・魚沼コシヒカリ。里山の幸にも恵まれた魚沼には、ごはんによく合う、地元ならではのおかずも多彩にあります。
白いごはんをおなかいっぱい食べて、いで湯に浸かる幸せを魚沼で。

魚沼の風と水の音魚沼へ旅行するのなら耳を澄ませて音を聴くこと。春は雪解け水が田んぼの農業用水路をさらさらと流れる音がする。夏は雨の音。晴れた日の夕立の音だ。秋は稲穂が風にそよぐ音。冬は雪がしんしんと降り積もる音。どの音もかすかな音だ。だが、耳を澄ますと聴こえてくる。魚沼の風と水が奏でる音がそこにある。

日本が誇るブランド米の産地「魚沼」とは、魚沼市と南魚沼市を合わせた地域のことだ。上越新幹線でいえば、越後湯沢から出て浦佐を通過した少し先までのエリアと考えればいい。そして、八海山、谷川連峰のふもとに広がる魚沼盆地がコシヒカリの水田になっている。

魚沼盆地のほぼ中央にあるのが笠原農園。生産者の笠原勝彦さんは「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で連続入賞し、全国で7名しか受賞していない名稲会ダイヤモンド褒賞を受けている。ざっくり言えばスーパースペシャルな米を作る人だ。

晩秋、最後の刈り取りの日、わたしは笠原勝彦〈かさはらかつひこ〉さんから米と魚沼ならではのおかずについて話を聞いた。「1本の稲には80粒から200粒の米粒が生〈な〉ります。そして、15本から20本の稲が集まったものが1株の稲束です。6株の稲束の米を集めるとごはん茶碗1杯分になります」

モミを取り去り、精米すると、米粒はぐっと小さくなる。ごはん茶碗1杯分の米を作るために笠原さんたち農家は年中、忙しく働いている。「おいしい米を作るには、ひとつは地域環境です。魚沼の気候と水が水田耕作に適しています。それと初夏から夏にかけての日照時間です。雨が続くと不作の原因になります。ただし、夏の夕立は必要なんです。魚沼では夏の夕方、ザーッと雨が降る。昼間の日光で熱くなった稲穂が冷やされることで、うま味が増すんです」

笠原さんは自分で工夫した肥料を使い、さらに、たい肥も製造している。手間がかかっている。

では、彼は自分の田んぼで作ったおいしい米をどんなおかずで食べているのか。「妻が作った茄子味噌と茄子漬けがいちばんおいしい。新潟県人は茄子が大好き。茄子の消費量は全国で1・2を誇ります」

その茄子味噌を食べてみませんかと誘われ訪ねると、台所には新米のおにぎりが積まれていて、茄子味噌のほか、茄子漬け、焼き鮭、厚揚げとぜんまいの煮物などが並んでいた。

笠原さんたちは食べない。黙ってみている。わたしはおにぎりを食べ、茄子味噌を食べた。またおにぎりを一個食べ、焼き鮭をしゃにむに食べた。これで最後ともう一個、いちばん大きなおにぎりと茄子漬け、厚揚げ、ぜんまいを食べた。生まれてきてよかったと心底思った。それが魚沼の米の旅の始まりだった。

(ノジュール2023年12月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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