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歌川広重の浮世絵から

往時を思い中山道を歩く

文=佐々木泰雅(編集部) 写真=村岡栄治

東京と京都を結ぶ中山道。歌川広重が描いた『木曽海道六拾九次之内』から往時の賑わいを垣間見ることができます。
同作品を所蔵する恵那市の中山道広重美術館と周辺スポットを巡りました。

広重の景色を追い求めて
JR恵那駅からぶらり歩き
江戸初期に整備され、五街道の一つに数えられる中山道〈なかせんどう〉。日本を代表する絵師、歌川広重は天保7年(1836)〜天保9年(1838)頃に『木曽海道六拾九次之内〈きそかいどうろくじゅうきゅうつぎのうち〉』と呼ばれる浮世絵で中山道を描き、自身も歩いている。日本の大動脈として使われなくなって久しい中山道だが、現在でも至るところに当時の名残を見つけることができる。今回は広重が描いた中山道を見るため、江戸の日本橋から46番目の宿場町に当たる大井〈おおい〉宿(現在の恵那駅周辺)を起点に中山道を散策することにした。

名古屋駅から区間快速に乗り約60分、降り立ったのは東美濃の恵那〈えな〉駅。駅前には観光物産館のえなてらすがあり、朴〈ほお〉の木の葉で酢飯を包んだ恵那市名物の朴葉〈ほおば〉寿司やえなハヤシが売られている。えなハヤシは、ハヤシライスの生みの親である早矢仕有的〈はやしゆうてき〉が岩村藩領(現在の山県〈やまがた〉市)で生まれたことにちなんだB級グルメだ。

街道を歩くからには、郷土の街道グルメを食べたい。恵那駅から歩いてすぐのあまからでは、東美濃一帯で愛される郷土料理の五平餅を食べることができる。「一口に五平餅と言っても様々な味や形があるんです」と話すのはあまからの西尾大介さん。形はわらじ型やきりたんぽ型、味付けも味噌や醤油と店ごとに違いがあるそうだ。あまからの五平餅は団子状でクルミを隠し味に入れているのが特徴だ。直火で焼かれた餅がとても香ばしく、それに甘すぎないタレがよく絡んでいる。次々と口に運んで完食した。


広重の作品が目白押し
中山道広重美術館
『木曽海道六拾九次之内』で中山道を描いた歌川広重は同時代の絵師に比べて名もなき人々の表情を描くことが非常にうまかった。広重の浮世絵にはよく笑い、よく食べ、汗を流しながら街道を歩く旅人が表情豊かに描かれている。テレビもラジオもない江戸時代、浮世絵は芸術作品であると同時に知らない世界を教えてくれるメディアとしても機能していた。江戸の人々は広重の描く浮世絵を見てはるか遠くの宿場町に思いを馳せたことだろう。

恵那市には歌川広重の作品を多く所蔵する中山道広重美術館がある。同館は恵那市の実業家、田中春雄〈たなかはるお〉氏が約30年かけて収集した浮世絵コレクションを中心に展示する美術館だ。「浮世絵は光に弱いので常設展示を行うことができません。そのため当館では、企画展ごとに作品を入れ替えて展示しています」と話すのは中山道広重美術館の学芸員、常包美穂〈つねかねみほ〉さん。約1500点の所蔵品を誇る中山道広重美術館は毎年秋に『木曽海道六拾九次之内』を揃えて展示する企画展を開催している。広重の浮世絵を見てから、彼が描いた景色を訪ねてみるのもまた一興だろう。

同館の2階には浮世絵について楽しく学べる浮世絵ナビルームがある。ここで人気を集めているのが原寸大ほどの浮世絵を作る版画重ね摺り体験コーナーだ。版材にインクをのせてバレンで重ね摺りをする、本格的な工程を踏んで浮世絵制作を体験できる。せっかく恵那市に来たのでこの近くの宿場町、大井の図柄を摺ることにした。

美術館の1階にはミュージアムショップがある。中山道広重美術館では広重の浮世絵に描かれている人々、通称「広重おじさん」に注目したグッズが販売されている。広重おじさんトランプに広重おじさんアクリルスタンド、自分だけのお気に入りおじさんを見つけてみるのも面白い。

美術館を後にして街道を進むと大井宿本陣跡が見えてくる。大井宿は江戸時代後半に美濃国中山道の宿場町で最も栄えたといわれている。本陣は昭和22年(1947)に母屋が焼失してしまったが、正門は昔のものが残っている。

(ノジュール2024年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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