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歴史を刻む北の港町でロマンあふれる建築巡り

函館【北海道】

文=山口あゆみ 写真=入江啓祐

安政元年(1854)、ペリーが来航し、その翌年港を開いた函館。ロシアをはじめ、さまざまな国の文化を受け入れ、華やか歴史を刻んだ街は、今もフォトジェニックな姿で旅人を迎えてくれます。歴史的建築物をリノベーションしたスポットも多数。発見に満ちた函館山麓をひとり歩き。

フォトジェニックな
スポットが多い元町界隈
函館が開港したのはペリー来航の翌年。安政6年(1859)、横浜・長崎とともに国際貿易港となった。明治時代には、函館山と港の間の山手(元町)に各国の領事館や教会が建てられ、異国の文化は人々の日常にまで息づくようになっていったという。その時代の空気を今に伝えるのは、美しくロマンあふれるたたずまいの伝統的建造物。「函館山や天然の良港という自然と人が紡いだ歴史で函館という街ができました。その魅力はゆっくり歩いてこそ、よくわかりますよ」と、伝統的建造物群保存地区を一緒に歩いてくれたのは、ボランティアガイドの谷口敏彦〈たにぐちとしひこ〉さん。「まずはハイライトからいきましょう」

市電の末広町電停から基坂〈もといざか〉を上り、最初に向かったのは旧函館区公会堂。ブルーグレーに黄色がアクセントの堂々たる洋館だ。建築当時もこのデザインだったという。なんておしゃれなのだろう!

明治40年(1907)に函館は大火に見舞われ、その後、当時の豪商・相馬哲平の寄付をはじめ、住民有志によって建てられた。「外国人が建てた洋館ではないんですよ。函館に住む人がお金を出し合い、当時の函館区の技手が横浜などに洋館を見に行って設計し、大工さんが自分たちの技術を駆使して建てたのです」と谷口さん。外国人によって建てられた洋館が多い横浜や長崎との大きな違いだ。よく見ると屋根は瓦葺きで、「和」も息づいている。昭和期には、大正天皇が滞在された部屋なども復元され、より往時の意匠や雰囲気がよみがえった。そして2階のバルコニーに出てみると……!そこには函館港の絶景が広がっている。湾の向こうの山々も美しい。かつてこの港に汽船や帆船がたくさん停泊していたのだろうか。想像するだけでどきどきした。

次に向かったのは、函館市旧イギリス領事館。貿易を開始した年から昭和9年(1934)まで75年間、ユニオンジャックの旗を掲げていた。

1階には開港ミュージアムが併設されており、豊富な写真で函館の変遷が学べる。2階は復元された領事執務室や家族の居室。領事執務室では、函館市民に愛されたリチャード・ユースデン領事像が、双眼鏡を手に港を眺めている。思わず、当時の函館の街のことを尋ねてみたい思いに駆られる。

異国情緒と人の温もり
函館は住みたくなる街
港と元町は見通しのよい坂道でつながっている。八幡坂〈はちまんざか〉は坂の上から写真を撮る人も多い、函館を代表する風景の一つだ。

その先に、白にグリーンの尖塔が映える函館ハリストス正教会が見えてきた。「函館は開港前からロシアとのつながりが深い街でした。開港してからは交易が増え、住む人も増えて、美しい教会が建てられたのです。函館にはロシアから伝わった正教会の日本人信者もおられますよ」と谷口さん。

聖堂ではお祈りが行われていた。教会の方が「いいお話をしていますからよかったらどうぞ」と優しく招き入れてくれた。

近くにはロシア・東欧雑貨専門店、チャイカがある。店内にはウクライナの手刺繍のブラウスやカラフルなマトリョーシカ、家具などが並ぶほか、オリジナルのお菓子や紅茶もある。ティーコーナーでいただくと、どれもおいしく、さっき返信をしてくれた友人に、海外で買ったかのような異国情緒あふれるおみやげを仕入れた。

函館市の指定伝統的建造物には民家も多い。上下和洋折衷の木造建築は函館ならではだ。「坂の下から見上げると洋館に見えるんです。でも1階と内部は完全に和風の住宅なんですよ」と谷口さんが教えてくれた。

この周辺には古民家を改装して店にしているところも多いというので谷口さんと別れ、カトリック元町教会、函館聖ヨハネ教会の前から大三坂〈だいさんざか〉へ。その途中にtomboloというパン店がある。北海道産小麦と自家製天然酵母、塩、水だけを使い、薪窯で焼き上げられたパンはもっちりと食べごたえがあり、味わい深い。おかずにも合う、毎日食べたいパンだ。お取り寄せする人も多いという。家の近所にあってくれたらいいのに、と感じる店だ。

坂を下ったところにあるのは、築100年ほどの旧本久商店倉庫。リノベーションされ、今はozigibrewery函館麦酒醸造所になっている。函館のよさを感じられる場所をつくりたいと、3年前に一念発起し起業した石垣充清〈いしがきあつし〉さん。基本に忠実に、と石垣さんが謙虚に造るビールは飲みやすく、香りや後味がよい。軽い食事もあるビアバーは、一人で気ままに飲んで帰るお客さんも多いそう。

また、自分の街にあってほしい店を見つけてしまった。

(ノジュール2024年5月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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