老後に備えるあんしんマネー学 第44回
さまざまな情報が飛び交うなか、老後資金に不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。
お金を上手に管理して、老後を安心かつ心豊かに暮らすための、備えのマネー術を紹介します。
6月の年金支給から増額
繰下げ受給はおトクなのか?
6月に支給される年金から、年金額が2・7%増額されます。増額の結果、令和5年度の老齢基礎年金(国民年金)が満額で79万5000円だったものが、令和6年度は81万6000円に引き上げられました。年額で2万1000円、月額で1750円の増額になります。厚生年金も支給額がアップしていますので、厚生年金を受給されている方は、国民年金とダブルでの増額になります。
物価や手取り賃金額などの
変動で年金額が改定される公的年金の支給額(変動率)は、物価変動率や名目手取り賃金変動率、そしてマクロ経済スライドによる調整率などを加味して決められています。
今年度は、物価変動率がプラス3・2%、名目手取り賃金変動率がプラス3・1%になりました。物価の変動率が名目手取り賃金変動率を上回った場合は、名目手取り賃金変動率を採用するルールになっているため、今年度の変動率は名目手取り賃金変動率である3・1%が採用されました。そして、もう一つの指標となるマクロ経済スライドによる調整率は、マイナス0・4%。3・1%のプラスから、0・4%のマイナスを差し引きした結果、2・7%の増額になったわけです。
年金額が多少アップしても、物価の上昇に追いついた感じはしないと思いますが、「年金額が増えた」のは、心理的には安心材料ではないでしょうか。
年金を早めにもらう方法や
遅らせる方法があるところで、公的年金の受給開始年齢は原則65歳からですが、早めにもらい始めたり、遅らせたりできる制度が設けられています。60歳から65歳になるまでに受け取る方法を「繰上げ受給」、反対に最長で75歳になるまで遅らせる方法を「繰下げ受給」といいます。
年金の繰上げ受給は、受取額が本来のものよりも減額になります。減ってしまった年金額が生涯にわたり続くため、おすすめしたことはありません。早めにもらい始めた結果、長生きをされて後悔している相談者も少なくないからです。
一方の繰下げ受給に関しては、おすすめする場合があります。繰下げ受給をすると、1カ月遅らせるごとに0・7%ずつ、年金額が増えていきます。例えば、5年間繰下げすると、42%も支給額が増えるのです。「年金額が42%も増える!」と聞くと、とても有利に感じるはずですが、繰下げ受給を選択すると、税金や社会保険料に影響を与えるケースがあることも理解しておく必要があります。
非課税者のままでいられるなら
繰下げ受給がおすすめ次は、公的年金にかかる税金の仕組みを説明します。65歳以上で、年金額が330万円未満の方は、公的年金控除が110万円使えます。さらに、基礎控除が48万円ありますので、110万円+ 48万円=158万円までの所得であれば、税金はかかりません。つまり、税金がかからない=非課税者ということになるわけです。また、配偶者控除や生命保険料控除、医療費控除などの各種控除が使える方は、非課税ラインがもう少し上になります。
繰下げ受給を選択しても非課税者のままでいられる方は、繰下げ受給を選択するのもよいでしょう。一方、繰下げ受給を選択すると非課税者でなくなったり、もともと年金額が多くて税金や社会保険料の負担が増えたりする方は、要注意です。
98ページの図では、東京都千代田区の社会保険料率を用いて、手取りの年金額をご紹介していますが、年金額が増えても、そのまま手取りになるわけではないことがお分かりいただけるでしょう。ちなみに千代田区は、全国的に見ても社会保険料率が低めに抑えられている自治体です。料率が高い自治体にお住まいの場合、手取り額はさらに減ります。
繰下げ受給を選択しなければ非課税者でいられた方は、非課税者を対象に支給される給付金などが受け取れなくなる可能性もあります。高額療養費制度が適用される入院をした場合でも、負担の少ない非課税者の負担額ではなくなり、介護保険の自己負担額を判定する際も、非課税者としての減額措置が受けられなくなる場合もあります。
はたなか まさこ
ファイナンシャルプランナー。
新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演を行う。
「高齢期のお金を考える会」「働けない子どものお金を考える会」などを主宰。
最新刊『70歳からの人生を豊かにするお金の新常識』(高橋書店)など著書多数。