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フェルメールならではの技を読み解く

文:白坂由里 監修:小林賴子

“光の魔術師”“フェルメール・ブルー”など、様々な言葉で語られるフェルメール。
同時代の画家たちと一線を画す、彼の唯一無二の技とはー?

光とあらゆる要素が絡み合う
“織り物”としての作品
「フェルメールの絵画には、光・色彩・形・モチーフの選択・空間といったあらゆる要素が緊密に結びつき、相互に支え合っている複雑な織物のような魅力があります。すべてが同時に成り立っていて、ひとつも引けないし、ひとつも足せない。だから緊密度が高く完璧で、作品から目が離せなくなるんです」と語る小林さん。

フェルメールが到達した風俗画の傑作《牛乳を注ぐ女》はその最たる例だ。家事にいそしむ女性が独り厨房に立つ。彼女はこの空間に射し込む光の春のようでさえある。「絵の中の女性が、よじれながら落ちるミルクを見つめる目線が、遠近法(三次元の立体を二次元の平面で描く技法)の消失点に向かっており、窓からの光も窓の桟もすべてがここに集まっていて、鑑賞者の目を惹きつけます」。

壁には当初、地図のようなものが描かれていたが、それを消したことで視線は女性に集中していく。床に描いた小さな行火(あんか)の効果で、前景と後景のものの大きさに差ができ、距離感が一挙に出た。窓から入ってくる光が事物に当たり、その光が反射して、幾通りにも空間を満たしている。光を描いた他の画家たちと違うのは、描かれているものが厳選されていてシンプルだから。光の現象も見えやすく、光のネットワークも効果的になっている。

現実的? 絵画的?
両方が表現された世界
額や腕、パンや金属容器の反射光、衣服やテーブルクロスの光沢。「写実的ですが、光を見たままに描くのではなく、絵画として必要なところに光を置いてもいるんです。女性は、補色関係にある黄と青の服とエプロンを身に着けていますが、実際にこの色の服を着ていたかどうかはわかりません。画家として黄と青という色彩を効果的に使いたかった、ということではないでしょうか」。

壁の下方のデルフトタイルは13センチ角だったので、これを基に部屋を実際に再現することもできる。「けれど、ただの再現は面白味に欠ける」と小林さんは続ける。「観察と絵画的効果。その両方を複眼的に思いながら描いているから、不思議なリアリティーが醸し出されているのです。現実を写すものとしての絵画でいて、絵画の中にしかない世界が表現されているんですね」。

(ノジュール2018年11月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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