50代からの旅と暮らし発見マガジン

こだわり1万円宿 第31回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

秋田県

大湯温泉 阿部旅館

栗駒山の紅葉に包まれる渓流沿いの秘湯

地面から噴煙立ち上る
秘湯感漂う湯宿
湯沢駅前を出発したバスが終点の鳥谷に到着すると、阿部旅館の送迎車が待っていた。クルマで国道398号を、さらに3分ほど走り、深い渓流にかかった橋を渡って左に50mほど入っただけで、秘境度は急上昇。宿の周囲には、真っ白な湯気が漂っていた。

チェックインの後、施設や食事の説明を受けながら、2階の部屋へ案内された。食事時間は、夕方が6時で、朝食は7時半。階段の踊り場に飾られたクマの毛皮が、奥羽山脈の秘湯らしい。

通されたのは8畳のこぎれいな部屋で、窓の外は緑がいっぱい。そして、一部剥き出しになった地面からは湯気が立ち昇り渦巻いている。ジオパークになっているからか、遊歩道も見えた。

ひと休みしてから、部屋をチェック。水回りはきれいに整い、トイレは洗浄機付き便座。入浴セット入りの手提げ籠もある。

裏山のジオスポットの探索を終えて、いよいよ温泉へ。宿泊棟にこぢんまりとした浴場はあるが、目指すは昔の湯治場の雰囲気を漂わせる谷間の温泉だ。柔らかな明かりが灯るジグザグの渡り廊下を谷底まで下ると、温泉棟だった。

豪雪地・湯沢の
山の恵みを味わう
脱衣場の脇に「源泉蒸風呂」という看板が掛かっている。地熱サウナだ。外に出る手前の小屋の中には、鄙びた雰囲気が漂う今昔風呂があり、外に出ると十和田石と多古石で作られた露天風呂と大らかな渓谷が迎えてくれた。

流れに沿った細長いもうひとつの露天風呂は、かじかの湯。手前の方が階段状に深くなり、最深部は1,3mに達するので、子どもは要注意と書かれていた。反対側は源泉に接していて、こちらは源泉が高温につき注意。源泉に隣接し湯船が深いので、古くからの温泉であることがうかがえる。

さらに、7月から9月は川底から湧き出す温泉を堰き止めた、大自然にどっぷりと浸かれる「天然川風呂」が出現する。川風呂の季節ではないけれど河原へ降りて流れに浸かろうかと思ったが、雨で増水していたので諦めた。

無色透明の単純硫黄泉で、肌に優しくなじみ気持ちいい。かじかの湯で長々と過ごし、露天風呂と今昔風呂にちょっと浸かり、源泉蒸風呂へ。室温はそれほどでもないが、湿度が100%なのでなかなか強烈な入り心地。床の簀の子の隙間から湧いてくる蒸気がとても熱く、慌てて足をマットの上に移したほどだった。

夕食は、奥羽山脈の幸満載。5点盛は、ヒロッコ(アサツキの若芽)とキクラゲの酢味噌添え、ネマガリダケの味噌煮、ヒラタケの卵とじ、ヤマウドの煮物、ジュンサイの酢の物。刺身は、皆瀬牛、ボタンエビ、マグロ中トロ。さらに、こごみのツナマヨ和え、イワナの塩焼き、ヤマウドの佃煮、サクランボなど。

3000円追加すると、地元名産皆瀬牛のA5ランクのステーキがつくが、これで十分だった。しかし、肉好きの人にはお勧め。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2018年10月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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