人気の特集
自然と共生する里山の暮らしが生んだ美
苔の風景に癒やされて
古来、日本らしい風景に欠かせない存在の苔。
全国にある13の苔スポットを今回は紹介します。
四季の中でも一番苔が生き生きとするこの季節、里山で、寺社で、深い森で、さまざまに美しい苔の風景と静寂に浸りましょう。
日用杉の木漏れ日が
育てた多彩な苔の庭小松駅から霊山・白山に向かい、清流・日用川〈ひようがわ〉に沿って進んでいくと、川べりに家々が集まる日用町〈ひようまち〉の集落に行き着く。苔の多彩さや美しさで北陸随一ともいわれる〝苔の里〞だが、ここは観光地ではなく、人々が暮らす静かな町だ。
迎えてくれたのは、苔の里を運営する一般社団法人叡智の杜の有川宗樹さん。叡智の杜は、日用町の住民を中心にした組織。有川家も、先祖代々日用町で暮らしてきた。「生まれたときから周りに苔の風景が広がっていたので、自分には当たり前の景観でしたが、いろんな方々から評価いただいたことで、ここが貴重な場所だと気付けました。そこで未来にも残せたらいいなという思いで、苔のある里山の景観を守る活動を始めたのです」
足を踏み入れてみると、そこには樹齢100年を超える杉の大木が林立し、木々の根元はびっしりと苔に覆われている。まるで苔の海が広がっているようだ。そこに古民家と蔵が立ち、シャクナゲやイワウチワなどの山野草が咲いている。昔話に出てくる美しい里山そのもの。
苔庭を巡る小道を歩きながら、有川さんが成り立ちを教えてくれた。「日用町は林業の集落で、時間をかけて育つ日用杉は石川県のブランド杉です。昔はもっと山間に住んでいましたが、日用川の治水が進んだ江戸時代中期に今の場所に下りてきて、この集落をつくりました。そのときに、家の周りにも杉を植えたのです。北陸の風土、谷筋の地形はもともと苔の生育に適した環境ですが、杉の木立による適度な木漏れ日がこの苔庭を育みました」
杉は針葉樹なので、日の光を完全に遮らず、また適切な間伐が入ることで日の入り方がまだらになり、日陰を好む苔と日を必要とする苔が混生している。苔の里では48種の苔が確認されているが、数種類の苔が混ざり合って育っているのがユニークだという。しゃがんでよく見てみると、日陰が好きなヒノキゴケの集まりの隣に、日向を好むウマスギゴケがこんもり。苔のじゅうたんに美しい文様を描いている。
